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新婚夫婦とその仲間②

 「ただいまあ!」


 4日後に、キラは青の門へと舞い降りた。衛兵が彼女に駆け付ける。


 「姫様、このまま陛下の所へいらして下さい。」


 「え、駄目でしょ、王宮に馬で乗り付けるのは。余程の緊急事態でないと……。」


 「余程の緊急事態です。」


 「え?」


 改めて見渡すと、居並ぶ衛兵達は、誰も彼もが深刻な表情をしている。


 「分かったわ。」


 キラは再びユニコーンに飛び乗ると、王宮の深部へ向けて高く舞い上がった。


     ★★★


 「どうしたの!?」


 キラは挨拶もそこそこに、両親の下へと駆け寄った。

 アークとミノンは、項垂れて丸テーブルに肘を付いていたが、キラを認めると窶れたような笑顔を向けた。


 「おかえり、キラ。お疲れさん。」


 「私がいない間に、何かあったの!?」


 「うん……。お前を待っていたんだ。キラ、よく聞きなさい。」


 アークは哀しみの色を浮かべてキラを見た。


 「もう間も無く……エヴァが、亡くなる。」


 「何……ですって……?」


 アークの発した言葉は、想像を超えていた。

 エヴァが……亡くなる?あの、快活で豪放な、男らしいと言っても良いようなエヴァが、もういなくなってしまう?それは……エヴァが、王としての寿命を迎えるということなのだろうか。――ソーマは、彼はどうしているのだろう……。


 「お前が出立してすぐのことだった。エヴァのほくろが点滅を始めたのは……。」


 「そんな!」


 「私も信じられない。しかしこれは、真実なのだ。王の死は突然やって来る。」


 頭では分かっていたつもりだった。でも、エヴァに限って、それはもっと遠い将来のことのような気がしていたのだ。


 「何か、私に出来ることは。」


 「…………ある。」


 キラの問いに、アークはしっかりと娘の眼を見据えた。


 「お前だけにしか出来ないことがある。……エヴァは、今生最後の望みとして、息子の結婚式に出席したいと願っている。」


 「――――!!」


 「お前が決めなさい。結婚するのは、お前だ。」


 余りにも突然の選択だった。しかし、彼女に迷いは無かった。


 「――行くわ。」


 「うん。お前なら、きっとそう言ってくれると思った。」


 「私は……これからどうすればいいの。」


 「まずは、お前の答を白の王宮に伝えて欲しい。エヴァの寿命は今日を入れて後4日。恐らく明日結婚式、明後日披露宴、その翌日に彼女は禊の籠りをすることになるだろう。」


 「本当に時間が無いわね。」


 「ああ。すぐにでも白王宮へ向かい、お前の意思を伝えて欲しい。指輪で白の門まで送ってあげよう。でも、私に出来るのはそこまでだ。そこからは、白の意向とお前の意志で決めなさい。」


 「はい。私はもう……此処へは戻って来られないのね。」


 「そうだな、当分は。……お前が青の王女で、青の時期女王であることは変わらない。此処が、お前の家だ。しかし、今は白の時期王妃としての仕事が最優先する。ソーマを支えてあげなさい。ソーマを愛しているね?」


 「はい。」


 「うん。……幸せになりなさい。」


 アークはキラを抱き寄せた。その途端、キラの目からは涙が溢れ出す。


 「母様も……来て。」


 3人は固く抱き合った。


 「……う……ええ……。父様、母様……今迄ありがとうございました。ぐふっ……。」


 「な、何を言ってるんだ。お前がいるだけでどれだけ楽しかったか……。」


 「寂しいけど……愛する人と共に、お前の道を行きなさい……うぅ……。」


 突然の別れに動揺しているのは、キラだけでは無い。3人はそれぞれの思いのままに涙を流した。


 「ご……ごめんね、いっぱい泣いて。こんなんじゃ、安心して送れないわね。」


 「今のうちに好きなだけ泣きなさい。」


 「私……白の王宮では決して泣かないわ。」


 「いい娘ね。思い遣りのある、自慢の娘だわ。ソーマに優しくしてあげなさい。今一番悲しんでいるのは、彼と、イサなのだから。」


 はっとキラはソーマに想いを馳せた。


 ……そうだ、母様の言う通りだ。この世で、一番エヴァの死に動揺しているのは、彼なのだ。


 「キラ、行こう。多くの人が、お前の答を待っている。」


 「――はい。」


 差し出された父親の手を、キラは力強く握り返した。

 

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