新婚夫婦とその仲間①
公道から逸れた山道で、一組の若い男女が馬上で抱き合っていた。この二人にとって、この場所で長い口付けを交わすことは最早日常となっていた。
「あーあ……。」
ソーマはキラを抱きしめたまま、切なげな溜息を漏らす。
「4日も逢えないなんて……寂しすぎるよ。」
「ごめんね。私も寂しいよ。」
「でも、仕様がないよな。国のことだもの。そんなに大規模な土砂崩れなの?」
「ううん、規模としてはそんなに大きい方ではないわ。只、上流で聖水を精製している谷があるの。水が濁っちゃって、父様はそっちに掛かり切りだわ。」
「そうだろうな。君もそこへ?」
「いいえ、私は行かない。父様がこなす筈の予定が滞っていて、私はそっちの代理。」
「なるほど。幾つくらいあるんだ?」
「全部で……8箇所かな。動きが取り易いように、指輪で送って貰わずユニコーンで行くわ。」
「うーん、心配だな。落ちるなよ。」
「失礼ね、誰に向かって言ってるの。寝てたって落ちないわよ。」
「うむ、その点についてだけは心配ないのか。帰ってくるのは4日後?」
「ええ、午前中には帰って来られると思う。」
「じゃあ、学校から帰ったら会いに行こうかな。」
「ふふ、一日も待てないの?」
「顔を見て安心したいんだ。」
「そうか、ありがと。」
「……浮気するなよ。」
「あなたこそ、私のこと忘れないでね。」
言った途端に二人は可笑しくなり、笑った。
「婚約者振りも大分板について来たよなあ!」
「凄く婚約者っぽいよね!」
「でも、本当に気を付けて行けよ。何かあったら婚約者が泣くぞ。」
「ありがとう。気を付ける。」
彼等は再び抱き合って、最後のキスを交わした。やがて名残惜しげに離れ、馬はゆっくりと山道を登り始めた。