その後③
自分の叫び声で、遥眞は飛び起きた。
「……嘘だろ……嘘だろ?何でだ?何なんだ、この夢は――――!!」
遥眞はベッドに倒れ込んで、見悶えた。顔は涙でびしょ濡れだったが、それでも後から後から溢れてくる。
「信じらんない、あのクソ女!ふざけんな!酷い女だ!最低だ!最低の女だ!!」
あらゆる罵りの言葉を喚き散らしながら、彼は枕に顔を埋めた。
「最低だ、最低だ…………。」
遥眞は懊悩しながら、たった今見た、信じられないような夢を反芻した。
★★★
その日、彼は自室に籠っていた。仕事は山積していたのだが、何もやる気が起こらないし、やらないと決めていた。例え仕事に出たとしても、上の空で碌なことが出来ないだろう。
彼は、付き添おうかと聞いてみた。だけど彼女は、一人で大丈夫だと言った。こればっかりは本人の意志が大切だから、彼に出来ることはもう何も無かった。
静かだった。朝の慌しい時間も過ぎ、屋敷の中は静まり返っている。その時、
――シューバ。
聞きなれた声が頭の中に響いた。
――何!!
――来て。
――直ぐ行く!
彼は転がるようにバルコニーへ飛び出て、緑王宮の正門へと指輪を向けた。
★★★
「直ぐに行って下さい!」
緑門の衛兵は、彼を見つけると膝も折らずにそう言った。
「我々もテレパシーを受け取っています!指輪で女王の部屋のバルコニーへ!戸が閉まっていたら、窓を叩き割ってでも!急いで!時間が無い!」
一瞬後には、彼の姿は緑門から消えていた。
★★★
「セシル!!」
シューバはベッドに駆け寄った。彼女は軽く手を挙げて笑った。きちんと身に着けている、白い死装束が痛々しい。
「大丈夫なのか!」
「大丈夫よ。でも、随分意識が朦朧として来たわね……。」
シューバはセシルの手を取った。
「僕にどうして欲しい?何でもするよ!」
「うん……。何かして欲しい訳じゃないけど、ちょっと話を聞いて貰いたくって……。」
「話?何?」
「うん、あのね…………私、あなたのことが好きなの。」
「は…………?」
「そんなに驚くこと?私……あなたのことをとっても愛してるのよ。」
「な、なんっ…………!?」
「まあここ数年は、毎日顔を突き合わせていて本当の家族みたいだったから、敢えて言わなくてもいいかと思ってたんだけどね……ふふ、やっぱり言いたくなっちゃったみたい……。」
彼女は穏やかな微笑みを彼に向けた。
「あなたのことが大好きなのよ。愛してるわ、シューバ。今までありがと…………。」
セシルは嬉しそうに笑った。
「…………な、な、な、何だよ!!」
「…………。」
「何で今更!何で今になってそんなことを言うんだよ!!」
「…………。」
「僕だって、君のことをとても愛してるんだ!!いつだってずっとずっと好きだったんだ!!」
「…………。」
「セシル…………?」
冷やりとした違和感を覚えて、彼は呆然とした。時が止まったかのように、部屋の空気が凍り付いている。セシルは相変わらず嬉しそうに、清らかな微笑みを浮かべたままだ。
「…………セシル?」
呼び掛けても、彼女の表情は変わらない。
「…………セシル?…………セシル!!」
シューバはセシルに取り縋った。
「う……嘘だろ…………?うっ…………君って酷い……本当に酷い女だ。一方的に言うだけ言って…………。せめて……返事ぐらい聞いてから逝け―――っ!!」




