金の小箱を開けたら②
「……ありがとう。もう、大丈夫だ。」
遥眞は瑞月の肩から、ゆっくりと身を起こした。頬の腫れもほぼ引いている。
「先生、何を見たの?」
「……いきなり、キュアが刺されるシーンから始まった。それから、ヤグナの自殺も。」
「――――!!」
「先生、本当に大丈夫!?魂ちゃんとある!?」
「大丈夫だよ、蒼月。瑞月がしっかり癒してくれたから。」
「何度も辛い場面を見させてしまってごめんなさい。箱は、何て言ってるの?」
「嘗て自分が通って来た道程を、フィルムを早回しするかのように見せてくれた。そして……この箱は、不満を持っている。」
「不満?」
「そう、不満だ。黒王の手に渡った時点で、自分はもうじき役目を終えて黄の沼へと還る筈だったのに、そうでない状況に苛立ちを覚えている。……ね、オールジー。」
「何かしら。」
「あるべきものは、あるべきところにって……何?」
「何ですって!!」
「常に君の……いや、キアリの声が聞こえるんだ。」
「…………。」
「今僕は能力を使っていないけど、それでも聞こえている感じがする。あるべきものは、あるべきところにって、何?」
「……おまじないよ。」
オールジーは地面を見ながら呟いた。
「おまじない?」
「ちょっとしたコツとでも言うのかしら。魂にも色々あるから、自分にとって最も相応しい場所へ行きなさいという、願いみたいな。」
「どおりで。安らかな子守唄みたいに聞こえるよ。」
「そんなに効いていたなんて吃驚だわ。」
「効くと思うよ、何と言っても王の願いだからな。……そんな訳で、この箱は大いに不満を持っている。自分にも、魂にも。あるべきところに無いんだもんな。」
「なるほどなあ!」
良平は嘆息した。
「で、先生。俺達はどうしたらいい?キュアのことは何か言ってた?」
「いや、その辺のことはよく分からない。金の小箱と共に、キュアとヤグナの魂が入っているのは確かだけど。あ!それから、離解の魂の数は20から30くらいだ。」
「思ったより多くはないな。」
「ヤグナはほくろの点滅の後から集め出したみたいだ。……どう?この箱の抱えている思いは分かったけど、結局どうやってキュアの魂だけを取り出せば良いのか、僕には分からなかった。誰か、思い付いた人はいる?」
うーん、と皆は頭を抱えた。しかし、誰の能力を使ったとしても、それを有効にする手段を思い付いた者はいなかった。
「…………開けるしかなさそうね。」
蒼月の呟きに、瑞月はうん、と頷いた。
「俺が開ける。……委員長、悪いけど皆を連れて俺ん家へ戻ってくれないか。本当に全員死ぬかもしれない。」
その途端、瑞月の頭はパコッと殴られた。
「お前、馬鹿じゃねえの?」
「本当よ。まだ目が覚めないようなら、私も打ってあげるけど?」
「僕を癒したせいで、君がおかしくなってるんじゃないか?」
「もっと建設的な話がしたいわね。この箱を開けた後どうするか、とか。」
オールジーがそう言うと、全くだとか馬鹿馬鹿しいなどと言いながら、それぞれ頷いた。
「な、オールジー。俺も思い出しているんだけど、眠りを起こされた離解の魂は、永遠に怒り狂ってる訳じゃないんだよな?」
「ええ。永遠に続く大火とか、永遠に続く殺戮とか聞いたことがないわね。長くて……二ヶ月くらい?」
「そんなもんだよな。考えてみれば、この場所で良かったのかもな。世界遺産を失うことになるかもしれないけど、人的被害は免れそうだ。俺等に何かあっても、致命傷でなければ瑞月がいるから何とかなるだろ。医者もいるしな。」
「…………全力で治すよ。」
「よし。じゃあ、開けよう。」
「うん。……俺が蓋を開ける。ぱっと開けてぱっと閉じるから、蒼月、お前は金の小箱を取り出してくれ。」
「分かった。」
「金の小箱を取り出したら、直ぐに開けるんだぞ。どういう状況かは分からないけど、これでキュアの魂は解放される。」
瑞月は、黄の箱に手を掛けた。




