蘇る記憶④
蒼月は目覚めた。
目に入った見慣れない景色と、肌を覆う慣れない布団の感触に、自分が何処にいるのか分からなくて混乱する。自分の手にそっと他の手が触れて、彼女はびくっと身体を強張らせた。
「学校の保健室だよ。お前は、体育の時間に倒れたんだ。」
声の方向に目を向けると、心配そうな顔付きをした瑞月が傍らにいて、彼女の手を柔らかく握っていた。
蒼月は漸く思い出した。――そう。今日は林間学校が終わって、通常授業に戻った初日だった。彼女は準備運動をしている最中に、映りの悪いテレビのように急に視野が歪み、そのまま意識を失ったのだった。
「……ありがとう、瑞月。付添ってくれてたんだね。」
「先生と委員長も心配していたよ。起きられる?」
「うん。」
「起きたの?」
養護教諭の水沢が、パーテーションの横から顔を出した。
「具合はどう?」
「すみません、大丈夫です。少し風邪気味だったので、多分そのせいだと思います。」
「そう。あなた達は何だったのかしら。本当に只の風邪ならいいけど心配ね。お家の人に迎えに来て貰おうか。」
「いいえ、母は運転が出来ないからタクシーで帰ります。駅で拾って、車だとすぐだから。」
「僕も家まで付添います。」
「分かったわ。桜井君、もし途中で何かあったら、すぐに学校に連絡するのよ。」
「はい。」
二人は頭を下げて、保健室を後にした。
自転車は置いて行くことにした。二人でとぼとぼと歩いて校門を出る。
「お前、本当に大丈夫なの。」
瑞月は蒼月に声を掛けた。
「大丈夫だよ。分かると思うけど……家ではいっぱい寝たんだけど、全然寝てないみたいな感じだったから、本当に貧血を起こしたんだと思う。ごめんね、心配を掛けて。」
「いや、そんなことは気にしなくていい。ね、蒼月……。」
「うん?」
「少しだけ……うちに寄ってくれないか。すぐに帰すし、タクシーで家まで送って行くけど、ちょっとだけ。」
「うん……。」
蒼月は頷いた。そうしなければならないような気がした。




