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蘇る記憶①

 ――キラ。


 突然の呼び掛けに、キラは驚いて立ち止まり、耳を澄ませた。いないのが分かっていても、つい辺りを見回してしまう。


 ――キラ、いるの?聞こえているのなら返事をして頂戴。


 ――いるわ。ごめんなさい、ちょっと驚いてしまって。


 ――良かった!いるのだったらいいわ!ソーマもいる?


 ――ええ。セシル、何かあったの?


 ――何もないわ。只――。


 ――只?


 ――何ていうか……誰かが呼んでいるような気がしたの。


 ――――――!!あなたからの呼び掛けでないと、テレパシーは成立しないんじゃなかった?


 ――そうなのよ、だから気になって。


 ――…………。


 ――シューバとはもう連絡が取れたのだけど、順番に声を掛けてみるわ。多分何も無いと思うけど、一応待機しててくれる?もう一度声を掛けるから。


 ――分かったわ。待ってる。


 セシルからの交信は切れた。



 「どうしたんだ?」


 ソーマはキラに尋ねた。セシルからのテレパシーだと察したらしく、それまで声を掛けるのは控えてくれていた。


 「うん……。誰かに呼ばれているような気がしたって、順番に声を掛けてくれているの。」


 「それって――。」


 「そうなのよ。テレパシーは彼女から声を掛けないとテレパシーにならないじゃない?だから、気になるらしくって……。」


 「……そうだろうな。セシルはいつだって、自分の目の届く範囲でしか話掛けて来なかったもんな。集中している大事な場面で声を掛けてしまったら嫌だって。よっぽど気になるんだろう。彼女は何だって?」


 「もう一度連絡をくれるって。それまで待機してて欲しいって。」


 「そうか。」


 二人は沈黙した。釈然としない、重苦しい時間が過ぎてゆく。セシルから二度目の交信があったのは、暫く経ってからだった。



 ――キラ。


 ――どう?


 ――それが――ヤグナからの応答が無いの。それから……キュアも。


 ――何ですって!?


 ――落ち着いて、キラ。もしかしたら寝てるだけなのかもしれないし。取り敢えず王の間まで来てくれる?あそこは建物の中だけど、指輪で入れるから。皆にもそう声を掛けるつもり。


 ――分かった、すぐ行く。


 そう答えながらもキラは指輪の輪を広げ、ソーマと共に輪の中へと入って行った。


     ★★★


 「どうだった!?」


 セシルが王の間に姿を現した途端、皆は彼女を取り囲んだ。キラとソーマとオルテスが、彼女の出現を今か今かと待っていた。


 「相変わらずヤグナとキュアからの応答が無いわ。今、シューバが黒王宮へ行ってくれてる。」


 「シューバが?」


 「ほら、私達が皆で行っちゃうと、びっくりして知っていることも喋ってくれないかもしれないでしょ。それに比べると、シューバにとっては生家でもあるから……。」


 「その方がいいだろう。未だに自分の子供のように思っている侍従も多いからな。ところで、キアリはどうしたんだ?」


 オルテスがそう尋ねると、セシルは小首を傾げながら顔を曇らせた。


 「それが……何かおかしいのよ。」


 「おかしい?」


 「ええ……。一度目のテレパシーの時、確かに彼女は黄王宮にいたわ。だけど、二度目の時には応答が無いの。」


 「それは……おかしいな。」


 「一度目の時なら兎も角、二度目の時は待機してと言っておいたし。気になったから、その後セイジに交信してみたの。」


 セイジはキアリの王配だった。


 「そしたら……。」


 「そしたら?」


 「急に倒れて、かなりの高熱を出しているって言うのよ。意識も無いようで人と話せる状態じゃないって。」


 「何ですって!?ちょっと前までは普通に話していたんでしょう!?」


 「そうなのよ。私も……悪いけどちょっと信じられなくって、その後エテにまで確認を取ってしまった。だけど、本当みたいなの。あれは子供が出来る演技では無いわ。母親が急に倒れてしまって、不安で堪らないという感じだった。」


 「まあ……!」


 「何か……凄く嫌な感じだな……。」


 「シューバを待とう。たまたま妙なことが重なっただけかもしれないし。」


 「そうだな……。」


 彼等はそれぞれ頷いた。しかし、心に重く伸し掛かる嫌な予感は、誰も払拭出来なかった。


     ★★★


 「――待たせたね。」


 不意にシューバは姿を現した。


 「どうだったの?」


 「いない……。皆隅々まで捜してくれたのだけど、黒王宮にはいなかった。キュアが単独なのではないかと思って、紫王宮との境まで行ってみたけど誰もいなかった。あと考えられるのは……。」


 「黒の砂漠ね。」


 「ひょっとして仕事を教えてるんじゃないか。集中していてテレパシーが聞こえなかったのかも。」


 「そうね。どうする?皆で黒の砂漠へ行ってみる?只砂漠はとても広いから、捜すのに時間が掛かるかもしれないけど。」


 「だったら指輪で捜してみよう。手分けして捜せば早いだろう。皆、角度が重ならないように、少しずつ方向を変えてくれ。」


 「分かったわ。」


 彼等はそれぞれの指輪を広げて、黒の砂漠を映し出した。暗くて分かり辛かったが、幸いにしてその夜の地球は真円に満ちていた。


 「――いた!!」


 程無くしてオルテスが声を上げた。


 「人影が二つある!……何なんだ、これは!?二人ともぴくりとも動かないじゃないか!倒れているのか……?暗くてよく分からない……。」


 「行くわよ!」


 セシルの掛声と共に、皆がオルテスの映し出した輪を潜り抜けた。

 

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