炎の中の子供②
「うーん……中毒って感じではないな。気道熱傷の心配もなさそうだし。」
四人はそれぞれ診察を受けた後、水沢と共に診察室へ入った。
「林間学校は続けられますか?」
「止めておいた方がいいんじゃないですか。特異な所見は認められておりませんが、それぞれ頭痛や吐気などの症状を訴えている。熱傷の疑いがある場合、極力安静にした方が良い。後から症状が出て来ることも有りますから。今日は全員泊まって貰います。」
「分かりました。明日、全員東京に帰した方がいいということですね?」
「ええ。今夜大きな変化が現れなければ、ですが。」
「僕は大丈夫です。一晩経てば落ち着くと思います。」
「こういう人が一番困るのです。無理をして悪化させたら、余計に迷惑を掛けることになりますよ。」
「…………。」
「分かりました。榎戸先生、ご心配なく。文ーⅠの引率は、責任を持って私が引き継ぎますから。」
「……お手数をお掛けしてすみません。」
「先生、いいですか。」
篠原が医師に声を掛けた。
「睡眠剤を処方してくれませんか。眠りたいのに、興奮して眠れない感じなのです。」
「……僕も。」
「私も。」
「私も。」
「……何なんだ、君達は!その若さで睡眠剤に慣れているのか?」
「まさか!凄く疲れてるのに、全然眠れないっていうことあるでしょう?今の僕はそんな感じなのです。」
「……僕も。」
「私も。」
「私も。」
「…………。」
「先生、嘘じゃないですよ!この子達はそういう子じゃありません。彼等がそう言うのだから、出してやって下さい。」
水沢の言葉に、医師は頷いた。
「むう……。分かりました。ごく軽いのを出しておきましょう。では皆さん、速やかに入院棟へ移って今夜は安静にして下さい。少しでも異変を感じたら、すぐにナースを呼ぶんですよ。」
「はい、ありがとうございました。」
彼等は立ち上がって礼をした。そんな彼等を、医師は冷ややかな目で見る。
……皆、すぐに立ち上がることは出来るが、どうも動きが緩慢だ。熱傷の疑いは殆ど無いと言って良いが、何とも嫌な感じだ……。中毒が原因なら、重症化しているか、もっと偏った症状が出ていてもおかしくないのだが。このまま、回復に向かってくれれば良いのだが……。
医師は腑に落ちない感覚を覚えながらも、ぱたんとカルテを閉じた。




