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炎の中の子供①

 林間学校は晴天に恵まれ、滞りなく行われていた。バスを連ねて富士山麓へと向かい、氷穴、風穴などを見学して、遥眞の言っていた子汚いロッジへと山道を登って行く。ちょっと都会では見られないような荘厳な夕暮れを迎えた後、キャンプファイヤーの炎は煌々と空を焦がし、その周辺では幾つかのグループに分かれてバーベキューが行われた。その間にはクラス毎の出し物が催され、蒼月と瑞月のクラスのマスゲームは、盛大な拍手と共に大きな盛り上がりを見せた。今は、他のクラスがよさこいの踊りを披露している。

 蒼月は中央の火から少し離れて、一人石段に座りぼんやりとそれを見ていた。


 「大丈夫か。」


 瑞月がそう言いながら、隣に腰を掛けた。


 「うん。どうして?」


 「何か調子悪そうに見えたから。あんまり食べてないだろ。」


 「……何だかね。動物が寄って来ないようにと気を張っていたせいなのかな。ちょっと疲れた。」


 「そうか。癒してあげたいけど……。」


 「いいよ!こんな所で癒されたら大顰蹙だよ!大丈夫、キャンプファイヤーが終わったら即効寝ちゃう。」


 「他の女子に付き合って夜更かしとかするなよ。」


 「しない、しない。ありがと、瑞月。」


 「うん。あ……終わった。集合みたいだよ。」


 「全員でマイムマイムだっけ?」


 「そうだった。行くか。」


 「うん。」


 二人は立ち上がり、輪の中へと入って行った。

 実際、蒼月は調子が悪かった。何となく体が重だるいし、特に炎のそばに寄ると、ざわざわと胸がざわついて落ち着かない気分になる。瑞月は蒼月を心配してくれていたが、そんな瑞月も調子が悪そうに見えた。横で繋いでいる手の力が弱々しく、何も考えず機械的に足を運んでいるような感じだ。

 ――早く曲が終わるといいのに。蒼月はそれだけを祈った。


 ――その風は何処からやって来たのだろうか。

 皆で手を繋いで円の中心へと向かう時に、強い突風が吹き荒れた。恰も、そのタイミングに合わせたかのように。キャンプファイヤーの炎は大きく拡大され、空一面が炎に包まれた。遠くで、女子生徒の悲鳴が聞こえる。


 蒼月は、その中に、小さな子供を見た。


     ★★★


 「キュア!!キュア!!お願い、目を開けて!!」


 彼女は泣き叫びながら子供に取り縋っている。


 「キュア!!返事をしてくれ!!」


 ソーマは必死の形相で子供を抱きしめた。彼の服は忽ちのうちに血で染まってゆく。子供の胸からは大量の血が流れ出ていて、身体は血の塊のようになっていた。


 「今父様が治してやるからな!頑張るんだぞ!」


 子供はがくりと首を落としている。子供を抱きしめたソーマの肩に、オルテスは手を掛けて静かに首を振った。


 「そんなことは無い!きっと治してみせる!」


 「……魂呼(たまよび)されている……。そうでなくてもこの状態では……。」


 「魂呼だって……?」


 「ああ……。」


 「キュアは……?」


 「残念ながら…………。」


 「いや――――っ!!」


 自身の絶叫と共に、キラは意識を失った。



 その後の記憶は混沌としている。まるで動画を、一時停止させながら再生しているかのようだ。


 ――誰かが呼んでいるような気がしたの。


 ――ところで、キアリはどうしたんだ?


 ――王の指輪を見る――!?それがどれだけ危険なことなのか分かっているのか!


 ――短剣と…………金の小箱を。


 ――たった15秒でそれだけのことを!?


 ――照準は……ヒミコ?……フジサン……いや――樹海だ。


     ★★★


 涙でぼやけた視界の先に、瑞月が横たわっているのが見えた。彼の虚ろな眼からは、止め処なく涙が零れ落ちている。

 ばらばらと人が集まって来る気配がした。


 「先生、大丈夫ですか!私の声、聞こえますか!」


 養護教諭の水沢の声が聞こえる。


 「……大丈夫です。……桜井達は、無事ですか……?」


 「え……?まあ!!桜井君、桜井さん!私の声が聞こえますか!篠原君も!意識があるのなら手を挙げて!」


 三人は弱々しく手を挙げた。


 「救急車を呼びます!」


 水沢は、周りの教師にそう宣言した。


 「いえ、それには及びません。」


 遥眞はだるそうに身を起こしながらそう言った。


 「水沢先生、申し訳ありませんが麓の病院まで送ってくれませんか。何か嫌な臭いがした。薪から出た有害物質を吸ったのかもしれない。そうだよな?」


 余り見ることの無い遥眞の目力に、三人は頷いた。


 「変な臭いがしました。ちょっとくらくらします。救急車を呼ぶより、先生に送って貰う方が早いと思います。」


 篠原が追随する。


 「分かりました。では、ロッジの管理人を呼んで来ます。誰か、呼んで来て。」


 数名の教師が場を離れ、倒れた四人は水沢の指示の下、炎から離れた場所に支えられながら移動した。


 少し炎から離れると、周囲は山特有のひんやりとした空気に包まれている。キャンプファイヤーの炎は時折薪の爆ぜる音を鳴らしながら、何事も無かったかのように穏やかに辺りを照らしていた。

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