ある女の朝食
2019年9月10日午前7時
これは、ある女の日常を日記のように綴った物語である。天気は、晴れ。抜けるような青さが目をさすみたい。ドライブに出かけることができたら、どんなにいいだろう。
その考えを、いつものクラッシック音楽が否定する。
たしか、朝の気分という曲だったと思う。
まさに、目覚めには適した音楽だ。身体に疲れが残っていなければ、だけれど。
スマートフォンの目覚まし機能のスヌーズを解除するときの一瞬の諦めに、気だるさが二乗倍になる。
時刻は7時。
職場から15分の距離にアパートを借りたのは、少しでも早く帰宅して休みたい気持ちと、教え子や保護者とプライベートな時間に会わない距離との最大公約数的なところを満たしていたと思ったからだ。
ブラックだとは、聞いていた。
覚悟もできていたつもりだった。
しかし、その仕事は、実習では想定できないほどブラックだった。
休憩時間という概念は存在しない。
昼食は遅くとも、10分で食べ終えるスキルが必須だ。
出勤は8時30分と、なっているけれど、その時間近くに出勤する人間はいない。
だいたいが、その一時間前には出勤している。
したくてしている訳では、もちろん、ない。
そもそも、7時45分に校門が開門され、玄関も解錠される。
つまり、7時50分には児童たちは教室に上がってくるのだ。
もし、その間に児童同士が喧嘩やトラブルが発生すれば、責任は担任にまわってくる。
その解決には、相当な時間がかかる場合もあるし、家庭訪問は17時以降にお願いしたいと、悪びれる様子もなく要望する家庭がほとんどだ。
ゆえに、一度問題が発生すると、その火消しのために、帰宅は確実に22時をオーバーする。
それが嫌だから、皆、不承不承ながら7時30分あたりに出勤している。
軽めのメイクをサッとすまして、動きやすく、かつフォーマルな服を選ぶ。
朝食は買い置きしてあるペットボトルのコーヒーと菓子パンだ。
朝からゆっくり朝食をつくる時間よりも、寝ていたい。
玄関に置いてある、スズキ、ジムニーのキーをとる。
無骨なデザインが逆に可愛らしく、車高が高いので運転がしやすいところが気に入っている。
カチャカチャ。
ドアのカギを閉める。
カツ、カツ、カツ。
少し高めのヒールを鳴らしながら、エレベーターへの通路を歩く。
さぁ・・・、長い一日が始まる。