ある男の朝食
2019年8月24日午前9時
これは、ある男の日常を日記のように綴った物語である。今日の天気は雨。それも、煙るような細かい粒子のような雨が、絶えず降っている一日だった。8月の下旬から秋まで降る雨を、秋雨や秋霖と言うらしい。いつものように、耳障りな機械音で目が覚めた。
その甲高い、ピピピピッ、ピピピピッ、と繰り返す音。
きっと多くの人が、気に触るであろうことが綿密な研究から導き出されたのだろう。
朝、起きた瞬間からこの不愉快な音を聞きたいわけではない。
しかし、自分にとって決まった時刻に起きるためには、どうやらこの音がベストらしい。
妥協的選択。不承不承ながら。
かれこれ、10年ほどこの音を吐き出す目覚まし時計に世話になっている。
今日は土曜日。
いつものように、朝から予定はない。立ち上がり、背伸びをしてから寝室をあとにする。
キッチンに入ると、昨夜洗っておいたグラスをとって、蛇口から浄水器を通して水をいれる。
ゴボ、ゴボボボボ…。
飲む。
ゴグッ、ゴグッ…。
そして、もう一度グラスに水を入れ、飲む。次に、鍋に水を2分の1ほど入れ、そこに卵を浮かせる。IHヒーターのスイッチを入れる。中火に設定する。
ピッ。ピロリ。
冷蔵庫を開ける。男の一人暮らしのわりには、よく整理されている方だと自認している。食パン(働く女性の代表のような女優が出演しているCMの商品)とソーセージ(ミュージカル調のCMで有名なあれ)を取り出す。野菜庫からレタス、きゅうり、トマトを取り出す。
フライパンをもう一つのIHヒーターにセットし、オリーブオイルを垂らし、ソーセージを焼く。弱火から中火の間。
ピロリ。
フライパンには蓋をする。(脂が弾けて飛び散るのを防ぐためだ)
食パンにケチャップを塗り、溶けるチーズをかけ、オーブントースターへ。2分と3分の間につまみをセット。
ジィー、ジ。ジジジジジジ…。
その間にレタスを千切り、きゅうりを切り、トマトを切る。浅いモーニングプレートに盛り付け、レモン汁をかける。
チンッ。
食パンがピザトースト(かなり簡易的ではあるが)になったことを、オーブントースターが控えめ主張した。ピザトーストもモーニングプレートにセットする。
ジュー…バチッ…ジュー…。
ソーセージの皮が弾け、そこから肉汁が滴り、焼けていく香ばしい匂いと音がキッチンに広がる。
ピッ。
左のIHヒーターをオフにした。
卵が入った鍋は、沸騰している。
ゴボゴボゴボ…。
あと2分ほどかな。棚からインスタントコーヒー(北欧の世界的シェアを誇るメーカー)の瓶を取り出し、マグカップに入れる。湯を注ぎ…。
お湯を作るのを、忘れていた。湯沸かし器(よく忘年会などの景品にもなっている、家庭に一つはある例の)で湯を作る。
毎日のルーティンの中でも、こういうイレギュラーはたまに起こるものだ。
CDラジカセのスイッチを入れる。ラジオはFMのNHKに合わせられている。クラッシクの管弦楽が心地よく流れてくる。チェロだろうか?
ゴボボボボボ…。カチッ。
湯が湧いたので、コーヒーを作る。
右のIHヒーターをオフにする。
ピッ。
湯をシンクに捨てる。湯気。鍋に水を入れる。
ジャー…。
ゆで卵を取り出し、モーニングプレートに置く。テーブルに移動して、朝食をとる。
キッチンには、NHKラジオの管弦楽が流れている。
読んでいただき、ありがとうございました。続きます。朝ご飯はしっかり食べて下さい。