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幼馴染と片思い  作者: 空月


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天ヶ瀬咲の場合




 わたしの幼馴染のるーくんは、かっこいい。


 顔が良くて、背が高くて、スポーツは万能で、頭もいい。ついでに気遣いもできる。

 これでモテない方がおかしいというスペックの持ち主なので、それはもうモテる。

 女子からは当然モテるけど、男子にも人気があるらしい(変な意味でなく)。


 小さい頃は病弱で、引っ込み思案で、男子からはいじめられ、ちょっとおませな女子には庇護対象にされ、それが原因でまたいじめられるという有様だったるーくんだ。

 成長したなぁ、と感慨深いし、幼馴染がたくさんの人に好意を持たれているのは嬉しい。


 ……嬉しい、はずだったんだけどなぁ。




「ねぇ、加賀美くんの好きな人って誰なのか、天ヶ瀬さんは知らない?」


「それ、よく聞かれるんだけど、ごめんね。知らないんだ」



 今日もまた、女子グループの誰がかっこいい誰が好きだのという話の流れで、るーくんの想い人について探りを入れられた。


 るーくんは、告白されると「好きな人がいるから」と断るらしい。

 誰を好きなのかと聞かれても答えないので、周りはるーくんと一番仲のいい異性、家が隣で幼馴染であるわたしに探りを入れてくるのだけど、残念ながらわたしは知らない。


 まあ、知っていたとしても、それを人に言うことはしないけど。個人情報を勝手に言いふらすのはよくない。


 「本当に?」と疑う同級生たちの視線から目をそらしていると、教室の入口から声がかかった。


「咲ちゃん。そろそろ帰ろう」


 話題の渦中のるーくんである。小さい頃はわたしより小さくて細かったとは思えないほどすくすく育ったるーくんが立っていると、教室の入口が小さく見える。

 大きくなったなぁ、なんて考えながら、同級生たちに別れを告げて、るーくんと帰路に着いた。




* * *




「こっち持つね」


「うん、ありがと」



 今日はお母さんにセールの卵を買って帰ってこいと厳命されていたので、スーパーに寄ってお一人様1パックの卵を二つと、その他食材を買った。

 こういうとき、るーくんは当然のように重い方を持ってくれる。


 昔は逆だったのになぁ。


 るーくんは虚弱で非力で成長が遅かったので、小学校を卒業するくらいまではわたしの方が大きかったのだ。なので、お使いの時も重いものを持つのはわたしの役目だった。


 気付いたら目線が近くなって、また遠くなって、もう、見上げないと合わなくなって。

 荷物を持つ手もがっしりして、骨ばっていて、わたしとは全然違うものになっていた。


 男の人、になっていた。


 わたしがそれに気づく少し前から、るーくん絡みで女の子にいろいろ聞かれることが増えた。

 幼馴染だからって一緒に帰るのはおかしい、この歳でそんなに仲がいいのは好き合ってるんじゃないか、みたいに言われるようになった。

 まあ、それは小学生のころ、まだるーくんが小さくてかわいい頃にも言われたことだ。問題は、それが女の子たちを主流に言われるようになったことだった。


 要するに、るーくんを『男の子』として好きになった女の子には、わたしの存在が邪魔に見えるようになったらしい。ちょっと前までは「一緒に男子からるーくんを守ろうね!」みたいな仲だったのに不思議だ。


 一応わたしも女子なので、女子に反感を持たれると学校生活がうまくいかなくなるのは目に見えていた。

 その頃には、るーくんが、登下校中に喘息を起こしたり貧血を起こしたり、そういうのが無くなったというのもある。


 なのでちょっと距離を置こうかと思ったりもしたのだけど、こっそり離れてもるーくんが追いかけてくるのでまぁいいかとなった。


 るーくんは刷り込みされた雛なのだ。小学生の頃、男子連中にからかわれて「もう咲ちゃんとは一緒に帰らない!」とか言ったるーくんを、わたしが追いかけて構って構って構い続けてしまったので、距離感がおかしくなってしまったに違いない。


 勝手に持っていた「るーくんの面倒を見なきゃ」という使命感でるーくんの主張を聞かなかったわたしが、こっちの都合でハイさようならというのもどうかと思ったので、結局『ちょっとこの年頃にしては仲が良すぎる』幼馴染のままでいる。


 るーくんのお母さんと、わたしのお母さんは仲がいい。

 なので、小さい頃から、お母さんたちの帰りが遅いときはどちらかの家に二人でいる、というのが普通だった。

 そしてその流れで、るーくんのお母さんとわたしのお母さんが同じ習い事を始めたとき、『るーくんと二人だけでご飯を食べる日』というのが生まれたのである。


 その習慣は今でも続いていて、要するに今日はその日なのだ。だからるーくんに買い物に付き合ってもらったというわけである。



「咲ちゃん、今日は何作るの?」


「久しぶりにオムレツにしようかな。卵買ったし」


「やった。咲ちゃん家のオムレツ好き」


「知ってる」



 るーくんと一緒に食べる日の献立は、ついるーくんが「好き」と言ったことのあるものにしてしまう。


 ……だって、せっかく作るなら喜んでもらいたいし。


 そう思う気持ちが、誰にでも思うものなのか、るーくん相手だからなのかは、るーくん以外に料理を披露したことがないのでわからない。


 るーくんの好きな人を聞かれて、「知らない」と答えるときに少しだけ感じる胸の痛みの正体もわからない。


 るーくんの一番近くにいて、るーくんを一番知っていると思っていたのに。

 きっと一番るーくんのことを見てきたと思うのに、るーくんの視線の先に誰かがいたなら気づけると思っていたのに。


 そうじゃないからなのか、それとも。



「どうしたの? 咲ちゃん」



 ついじっとるーくんを見つめてしまって、不思議そうに首を傾げられる。



「なんでもないよ。るーくんかっこよくなったなぁと思って」


「? よくわからないけど、ありがとう」



 思春期のわりに素直なままのるーくんの、暫定一番の位置が心地よくて、この関係を壊したくなくて。


 わたしはわたしの気持ちを掘り下げずにいる、臆病者なのだ。




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