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悪役令嬢に返り咲かないで

すいません‥‥最後の方少し訂正しました。誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!!

 



 カラン……


 ボールペンが床に落ちて私の足元に転がってきた。

 私はそれを手で拾う。お、これは新作の商品、書いてもコスッて消せるボールペンだ。我が社の製品ご愛用ありがとうございまーす。来月七色セットも販売するので、そちらも是非よろしくお願いしますね。


 私が企画担当している製品だとは認知されていないので、それは言えないまま持ち主に渡す。


「ありがとう」

「生徒会長、このペンで重要な書類にサインしてはいけませんわ。コスッたら消えてしまいますからね」


 分かっているとは思うが注意した。


「そんなことは理解している。仕事の合間に明日のスピーチの原稿を考えていたんだ」

「大変そうですわね。でも、それは仕事が終わってからにして下さいまし」


 次のサインが必要な書類の束をペシッと机に置く。


「まだ気持ちは変わらないのか?フローラ嬢」

「…ええ、お気持ちは嬉しいのですが。王太子であらせられるお方の秘書という官僚職など、女の私には畏れ多いですわ」

「そうか…私は女性でも能力があれば構わんし、王宮に新しい風が吹くと思うのだがな」


 新しい風というか地獄の嵐が吹きそうですね。まぁ、ついこの間お父様が宰相になったから、それを加味しての判断だとは思うけど……。


「謹んでご辞退申し上げますわ」


 意思の揺るがない笑顔で答えたフローラを見て、生徒会長こと、この国の王太子は拗ねたような顔をして「フローラ嬢が男だったら…」などと嘆きつつ、通常のボールペンを取り仕事に手を走らせた。


 前世のように一般市民向けに低価格で販売しているボールペンだが、王太子が手に持つと違和感があるな…。こんど高級層向けに質の良いデザインの物を販売しようかな。

 そんな事を考えていたら生徒会のメンバー(攻略キャラ)から声をかけられた。


「フローラ嬢ちょっと構わないか、この資料なんだけど…」

「あっ、俺が先にフローラ嬢に質問したかったのにぃ〜!」

「順番に聞きますので、お待ちくださいませ」


 マッティアに婚約解消されてから五ヶ月の月日が経ち、私は再び生徒会で仕事をしている。

 当時の私からしたら、生徒会に戻るなんて考えられなかっただろう。


 窓の外を覗くと、澄んだ寒空の中に真昼の月が見える。今日は満月だ。

 婚約解消をされた時に見た、薄い闇の中で侵食された新月を思い出す。

 あの時の空っぽで渇いた気持ちはもう何処にも無い。今はあの満月のようにフローラの気持ちは満ちていた。




 ―――リヴァイアサンを回収する為、学園の先生と生徒達が手を貸してくれたが、その中にマッティアの姿は無かった。


 フローラは不思議に思い学園へ戻ると、いきなり学園長室に呼ばれた。部屋には学園長と生徒会顧問のナターリャ先生、それにお父様とマッティア、マッティアのお父様であるパルヴィン侯爵が揃っていた。

 驚いた私に、パルヴィン侯爵がマッティアと共に頭を下げて謝罪をしてきた。

 愚息が犯した非礼を詫びたいと。


 マッティアは私のお父様とパルヴィン侯爵に説教されたのか、顔が青白くなっていた。

 そしてその青白い顔を私に向けて、



「フローラ嬢、君との婚約解消を取りやめたい。君が許してくれるなら、どうか元の関係に戻れないだろうか」



 と懇願してきた。


 それを聞いて、

 私の中で何かが終わった音がした―――


 それは彼の本音では無い。彼は侯爵家の嫡子としての責任に圧迫されて耐えられずに、自身の大事な心を折ってしまったのだろう。

 あの真っ直ぐに自分の道を突き進む私の大好きなマッティアはもう何処にもいなかった。

 彼の中で静かにも輝いていた瞳の奥は、何かが混ざって濁ったような瞳に見えた。


 だけど、もしも今日リアムと一緒に過ごした時間が無くて、傷心に酔いしれたままの私だったのなら、それは喜ばしい申し出だったのかもしれない。マッティアの折れた心に気づかずに、言葉を鵜呑みにして頷き、またマッティアに好きになってもらえるように僅かな可能性を必死に狙って、懇願してきた彼の手を取っていたのかもしれない。


 けれど、リアムの力強く燃えるような瞳に引き込まれた後だったから、マッティアの心を映す瞳に気付くことが出来た。

 リアムが私の心を温めてくれたから、冷静に物事を見れるようになったのだ。


 私は、大好きだったマッティアが残念な姿へと変わった事に同情して、憂いた瞳を彼に向けて言った。


「では、婚約解消の取りやめを受け入れます」


 マッティアは虚ろな目を開いた。学園長とナターリャ先生は驚いて、お父様とパルヴィン侯爵は嬉しそうな顔をした。

 私はマッティアから目を逸らさず、その後も丁寧に言葉を紡いだ。


「そして、その上で申し上げます。マッティア様、どうか私との婚約を解消して頂けないでしょうか?」


 その場にいる全員が驚愕した―――




 結局、婚約は解消して、私とマッティアは赤の他人になった。

 私から婚約解消をしたという事でイーグス家の体面は保たれたので、パルヴィン家は多額の賠償金は払わなくても良くなり、イーグス家を敵に回すまでには至らなかった。そのおかげでパルヴィン家の没落だけは免れるそうだ。

 マッティア君、大いに私に感謝して頂きたい。


 お父様に本当に良かったのか?と心配されて、私はマッティアと婚約解消をする事に後悔は無いと笑顔で答える事ができた。

 それは無理して繕った訳ではない。私の本心だったので、お父様もそれを見抜き、すんなりと婚約解消をさせてくれた。


 全部、リアムの存在があったからだ。


 私からリアムに友達になろうと言ったのに、あの日からリアムを意識してしまって、自分からなかなか声をかけられなくなってしまった。

 リアムはリアムで、放課後が終わってからも飛び級の卒業試験と騎士団入隊試験の為に必死に勉強したり鍛えたりしていたので、私と話したり会う時間もそんなに無かった。


 少し寂しかったが、彼が未来の目標の為に必死で取り組む姿を遠くから見る度に、比例して彼を好きな気持ちを募らせていった。

 リアムの邪魔など決してしたくない。そんな輝いている彼に見合うように、私も目の前の事を頑張ろうと思えて元気になれたのだ。



 そして、生徒会で私が抜けた穴を埋める為、顧問のナターリャ先生は私の後任にリアムを押していたが、もちろん彼にそんな暇は無いので断られて、結局私が推薦したマリアが生徒会に入る事になった。

 しかし、私がマリアに仕事を引き継いでいる時に感じた胸騒ぎは現実となる。


 そもそも生徒会に女性がいる事も異例なのだが、その理由はこの時代の現状と、男性と女性の仕事への心構えと意欲の違いだった。


 貴族に生まれた男性は幼い頃から親の仕事を見て、ある程度理解し学んでいるので基礎が出来ている。そして将来自分が上へ登る為に生徒会で得るものが多いので、仕事への意欲があるのだ。


 それに対して、貴族の女性は夫に嫁ぎ世継ぎを産む事が仕事だ。

 もちろん私の様に(前世での)仕事の経験も無ければ基礎も無い。更に生徒会で仕事をこなしマウントを取る程、それと比べ自身を下卑する男性から敬遠されるようになってしまう。

 正直女性は、生徒会のメンバーと仲良くなる事以外にメリットなど何も無いので、当然仕事への意欲など皆無だ。


 しかもマリアは光魔法一本で入学した知識も教養も与えられていない一般市民。

 ましてや繁忙期に入っている生徒会の仕事など、到底出来る筈もなかった。


 私は仕事を引き継ぐ為にマリアに教えていたが、彼女の理解力が予想より遥かに低すぎて、正直骨がバキバキに折れた。

 仕事の手順が分かりやすいようにマリア専用のマニュアルを作成したのだが、そのマニュアルすら理解出来ず、イチタスイチ()ニダヨー。ナンデカッテイウトネ、ココニリンゴガヒトツアルデショー?…というレベルの基礎から始まって、マニュアルだけを教えるのに一週間を費やした。


 そして悪いとは思ったが、後はマリアを大好きな生徒会メンバー(攻略キャラ達)に全てをぶん投げて、私はオサラバしたのだ。

 君達の愛の力があれば、きっとこの困難も乗り越えてくれるはず……!!アディオス!!


 ずっと私に頼りきっていた生徒会のメンバー達は、自身の仕事をこなしつつ破滅的に仕事の出来ないマリアの指導やフォローをする余裕など無かったみたいだ。


 私が辞めて一週間もした頃、顧問のナターリャ先生から戻って来て欲しいと渇望され、嫌ですと断り続けていたら、ついに生徒会長を始めとした生徒会メンバー全員が私の前に来て、今までの謝罪と共に戻って来て欲しいと頭を下げたのだ。

 それは私が辞めてから二週間も経たない頃だった。


 今まで彼らがマリアと呑気にお茶をして仕事を押し付けられていた分、ざまぁみろと心の中でほくそ笑んでいた部分はあるが、私も鬼ではない。流石にこの国の王太子に頭を下げられてしまっては戻らない訳にはいかなかった。


 謝罪された日に私が生徒会室に行くと、マリアの姿はどこにも無かった。何でも三日前に突然生徒会室を飛び出して仕事を放り投げてから、彼女は学園にすら登校していないという。


 そんなに壮絶だったの?!二週間もない短期間で、一体何があったって言うんだ……。しかし、生徒会メンバーの悲痛な面持ちを見たら事の詳細を聞ける雰囲気でも無く、私は知らぬが仏だと思い無言を貫いた。



 ―――マリア脱走事件から五ヶ月経った現在。


 ハーレムエンドを迎えるのかと思った程、マリアは攻略キャラ達からの好感度は高かったはずなのに、あれから誰一人としてマリアの名前を口に出す者はいなかった……。ゲーム来月で終わっちゃうよ?!

 マリアの名前を私がふとした時に出すと、遠い目をする攻略キャラ達。あれ、目が死んでる?

 ……気になるけど、私のせいでそうなってしまったので、チキンの私には結局聞く事が出来なかった。


 主人公マリアはこのままだと、まさかのバッドエンドを迎えてしまうのだ。


 あれ、私ってばある意味、立派に悪役令嬢しちゃってたのかしら?

 ……えっ、これって私、断罪されないよね?!!


 マリアを生徒会に推薦したのは確かに私だけど、意地悪でしたんじゃないし。いや、でも引き継いでいる最中にコレはマリア終わったなと思いつつ押し付けたのも事実。マリアの名前を出さないだけで、私の知らない所でラブラブしている攻略キャラがいたとしたら………!!!


 それからフローラは、周りの攻略キャラ達を不審な目で見だした。

 私は今断罪される訳にはいかない。

 明日の騎士団入隊試験が終わったら、リアムに告白すると決めたんだから!!






ここまで読んでくれた皆様、ありがとうございます。

次回、リアムルートでドキドキハッピーエンド?!

一応最終回‥‥の予定です。

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