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たんぽぽの指輪

すいません、読みづらい所を少し説明長くして修正しました。

内容は変わりません!!

 



 リアムはここ数日で人が変わってしまったように思えた。



「アン、手…出して?」

「えっ……緊張する。リアムが先にやって?」

「ん〜〜……わかった」


 そう言って、いたずらっ子のような顔になったリアムは、後ろから私の腰に腕を回してギュッと抱き寄せてきた。

 リアムは右の拳を前に差し出し、手のひらを開いた瞬間、周りにいたハト達が一斉に集まってくる。


「わっ!わっ!」


 近距離でバサバサと飛び交うハトがあまりにも多くて少し離れたいけど、リアムの腕にガッチリホールドされて動けない。

 目の前がハトで埋め尽くされて別世界に変わった。


 餌を食べるハトに手を突っつかれているリアムは、少しくすぐったそうにして笑っている。

 耳横でバサバサっと音がして、私の肩の上にもハトが止まりだした。


「わわっ!」

「フッ…アン可愛い……」


 肩に乗ってるハトにびっくりして顔を反対に思いっきり逸らしたら、リアムがどさくさに紛れてほっぺにチュッとキスをしてきた。



 ウ……


 ウギャーーーーーーッ!!!



 初めてキスをした日から、私はだいぶ心臓に悪い日々を送っていた。

 そして今日は正式に婚約をしてから初めてのデートだ。


 リアムは先日無事に卒業を終えて、四月に騎士団の寮に入るまであと一週間ある。

 それまで毎日会おうねって話して、今日は平民街の公園に二人で来ていた。


 歴史ある大きな大聖堂の前にはだだっ広い公園の広場があって、平和の象徴であるハトが沢山飛び交っている。

 今日は春の陽気でポカポカ暖かくて半袖でも良いくらいの気温だ。

 広場の真ん中には噴水があって、近くには屋台や飲み物も売っていた。


 ベンチで仲良く座っているカップルや、芝生でのんびりとゴロゴロしているカップル、私とリアムのようにハトに餌をあげているカップルは他にもいる。


 ………ん?


 よぉく周りを見たら、ここはカップルばかりじゃないか?

 みんなイチャイチャ、ラブラブしている。

 私とリアムがくっついていても何の違和感も無い……。


 と思ったら、すぐ隣にいるカップルが濃厚なキスをしている最中だった。



 ギ・ギ・ギ・ギャーーーーーーーー!!!!



 なんていう所に連れて来るんだリアムは!!!


 驚いて口をパクパクしていたら、いつのまにか手に持っていた餌を地に撒いて自由になったリアムが私を両手で抱きしめ直して「何て顔してるの?アン」と耳元で嬉しそうに(ささ)やいて笑っていた。



 ひゃあ!!みっ、耳が………ッッ!!!



「リ…リアム、ちょ、ちょっと離して?」


 もうどうしていいか分からなかった私は、いったん離れて落ち着きたかった。


「いやだ」


 何故か嬉しそうに言って、私の髪の毛をリアムが手で流した。

 力ずくでは絶対叶わないだろうけど、何とか腕から出ようともがいたら、私の首筋に柔らかい感触がしてチュッと音が鳴った。



 ピッ、ピギャーーーーーーー!!!



 だ、だめだ!!私には刺激が強すぎる……!!


 自慢じゃないが、今世はもちろん、前世でも私の恋愛偏差値は底辺だった。


 二十五歳で前の世を去ったけど、付き合ったのはたったの一人。それも学生時代に三ヶ月。

 こんなイチャイチャな事はした事がなく、初々しく手を繋いだだけで、その後大学が別々になり自然消滅したのだ。


 無駄にリアムより人生経験はあるけど、こういった恋愛経験は皆無に等しいし……

 ど、どうすればいいの……?!

 私はリアムの甘い変貌に対応できずにいた。



 ………ん??



「……あれ、マリアさんとマッティア様じゃない?」



 少し遠いが噴水の向こう側のベンチに座っているマリアとマッティアを発見した。

 こんな所にいるって事は、無事にマッティアルートのハッピーエンドを迎えたのかしら?


 そう思ってたらマリアと目が合った。

 マリアはニヤリと笑い、マッティアの手を引っ張りこっちへやって来ようとしていた。


「……何の用だ?」


 リアムはさっきまでのトロンとした甘い声から通常の声に戻り、やっと私を抱きしめている腕をほどいてくれた。


 マリアはルンルンとスキップを踏んで、私たちの前に立ちはだかる。


「あらっ、偶然ですねぇ、こんにちは〜!」

「…ごきげんよう、マリアさん、マッティア様」


 マッティアの前だからなのか、猫を被ったマリアが笑顔で話しかけてきた。

 マッティアは後ろで何とも言えない顔をしている。


 最近よく思っていたけど、マッティアの顔色がずっと悪いんだよなぁ。

 私と婚約解消してからというもの、生徒会でも彼は口数が少なく、皆んなとも必要最低限の会話しかしていなかった。

 いったい何があったのか分からないが、今日のマッティアは明らかにやつれている。

 大丈夫かな?少し心配……


 私がマッティアをジッと見ていたからか、リアムは私の手を取ってギュッと握ってきた。

 リアムを見たら口がムスッとしている。


 もしかして妬いてくれたのかな?嬉しい………。


「いい天気ですねぇ、ずっと公園にいたんですか?私たち今日は指輪を買った帰りなんですよぉ」


 何も聞いていないのに話し出したマリアは、左手の薬指に付けた大きなダイヤの指輪を見せてきた。

 結婚報告の記者会見のように堂々と指を真っ直ぐに伸ばしている。


「…いえ、私たちは昼食をとってたので先程来たばかりですわ。素敵ですね。お二人はご婚約されたんですか?」

「うふふ、もうすぐ婚約するんですよぉ。フローラさんは指輪貰ったんですかぁ?」

「……まだですが、私は指輪にそれ程興味が無いので…」


 指輪に興味が無いわけじゃないが、無くてもリアムが愛してくれているのは伝わるから幸せだもん。

 それに私が指輪を付けてないのなんて見れば分かるのに、リアムの前でそんな事を言わないでほしい…。


 すごく嫌な気持ちになった。


「あぁ、リアム様は爵位があれですもんねぇ…。でもフローラさんは実家が大富豪?ですもんねっ。買ってもらえなくても自分で買えるから羨ましいですぅ」


 だめだ……殴りたい。


 リアムをバカにされるのだけは本当に許せない。


 フローラは無意識に、ギュッと力一杯に手を握りしめた。


 私の爪が何かに食い込んだ。……!リアムの手だ!


「あ…!ごめんね、リアム!」

「…大丈夫だよ」


 私に向かって優しく微笑んだリアムは、繋いでいる手をキュッキュッと弾むように何度か握ってくれた。


 あまりの怒りにリアムと手を繋いでいる事を忘れてしまっていたが、リアムの優しい対応に落ち着きをとり戻す。


「ふふっ、手なんか繋いじゃって。リアム様がもう少しで騎士団の寮に入るからフローラさんも寂しいんでしょう?」

「……ええ。でもマッティア様も入りますわよね」


 ここから早く立ち去りたい。

 怒りで声が震えそうになる。


「そうですけどぉ、実は私も光魔法の回復役として騎士団のお仕事をお手伝いしに行くから、マッティア様にはいつでも会えるし寂しくないんですよぉ」


 そう言ってマリアはマッティアにピョンと抱きついた。

 マッティアはずっと無表情のまま…。その表情に違和感を抱いてしまう。

 だけどそんな違和感などどうでもいいから、私は早くこの場を立ち去りたかった。


「そうですか…良かったですわね。どうぞお幸せに。では、私たちはそろそろ失礼いたします…」


 震える声で何とか言い切り、立ち去ろうとしてリアムの手を引っ張ったら、リアムはそれを止めた。


 何で……?



「マリアさん……でしたっけ?」


 リアムが静かに口を開く。


 リアムはマリアとは関わりが無いけれど、マリアは国内でも数人かしかいない光魔法の使い手だ。

 かなりの有名人だし、ましてや同じ学年だったのに名前を知らないはずはない。


「……そうですけどぉ、なぁに?」


 マリアの声のトーンが少し下がった。


「マッティア先輩は例の話、言ってないんですね」


 今度は少し悪そうな笑顔でマッティアを見た。

 マッティアはビクッと反応する。


「……例の話ってぇ、何かなぁ?」


 マリアはマッティアを横目で見た。


「マッティア先輩、俺が言っていいんですか?」


 マッティアはマリアから顔を逸らし、眉間に皺を寄せたまま無言を貫く。


「沈黙は同意とみなしますからね」

「何なのぉ?マリアに秘密の話ってサプライズとかだよねぇ?そういうのはマッティア様から聞きたいのにぃ」


 マリアは嬉しい事を言われるんだと予想したみたいだ。


「あー…マリアさん、良い意味としてのサプライズではなくて残念ですが、マッティア先輩は四月から北の辺境地に勤務するんで会えなくなりますよ」

「え?!!」


 リアムは飄々(ひょうひょう)とした態度で伝えた。


 マッティアはついに腹を据えたのか、抱きついていたマリアの手を自分から離して、マリアと向き合った。


「え、ちょ、ちょっとマッティア様?!」

「マリア……。何度も伝えたと思うが、私と別れてくれないか」


 え……?!どういうこと?!二人はハッピーエンドじゃなかったの?!


 マリアの顔に暗い影が落ちた。


「生徒会でマリアに優しくしたのも、私のせいでフローラ嬢が辞めたと生徒会の皆んなに責められたからなんだ。君に仕事を教えるのを嫌がる皆んなの代わりに、仕方がなく私が教えていた。皆んな君の本性を知って、女性恐怖症になりかけたんだよ。北の辺境地の勤務も、君と離れたいが為に私自身が希望したんだ。私は君と付き合う事を承諾したつもりは一切無いんだが、君の中で付き合っていたというのなら別れて欲しい。君のしつこさには正直まいっているんだ。生徒会で騙していたお詫びとして、今日買った指輪は手切れ金だと思ってくれ。君の気持ちには応えられない。すまないマリア……」


 まるで事前に用意していた台詞のように、マッティアはスラスラと述べた。


 マリアを見ると下を向き震えていた。

 ブツブツ何か呟いている。


 泣いているのかな……?


 と思った瞬間、


 マリアはいつのまにか手にナイフを持っていて、何故か私へ目掛けて向かって来た……!!


「生徒会に入らなければ…全部お前のせいだ…!!お前のせいだ!!お前のせいだ!!!」


 マリアは生徒会に入った事でマッティアとの仲が深くなったと思っていたが、その意識は全て崩壊した。

 生徒会に入ることになった元凶のフローラに向けて、憎悪を抑えきれずにマリアは走り出した。

 その狂気に満ちたマリアの顔はとてもじゃないがヒロインと呼べはしない。


 ナイフの刃が太陽の光に反射して眩しい…!



 こ……怖い!!!



 しかし、フローラの横には騎士団入隊試験の優勝者がいた。

 リアムはマリアの手を軽く叩いてナイフを落とし、それを足で勢いよく踏んづけた。



 バァアンッッッ!!!!



 ナイフを踏んだ音が公園中に響き渡り、周りにいた人々の視線がこちらへと集まる。

 リアムの足元を見ると、石畳みの地面が盛大にひび割れていて、落ちたナイフは粉々に砕けていた。


 す……すごい。ナイフって粉々になる物なの…?



「マリアさん、あなたを宰相令嬢殺人未遂容疑で現行犯逮捕します」



 氷のような目付きのリアムは聞いたことの無いような低い声でマリアへと言い放った。


 マッティアは頭を抱えている。


「な、何よ!!逮捕するってまだ騎士でもない癖に何言ってるのよ!!離してよ!!」


 ギャーギャー騒ぐマリアに、マッティアがポケットから騎士の証のカードを見せる。


「来週から騎士団の職務に就くが、もう私たちは試験に合格して入隊したんだ。この証明書は今朝届いた。もう君を逮捕出来るんだよ」

「………ッ!!」


 マリアは観念したのか、リアムに掴まれて抵抗していた手首がしな垂れた。


 マッティアはまるでゴミを見るかのような目でマリアを見て蔑んだ。


「君…いや、貴様と仮にも付き合っていたのかと思うと、おぞましいな…」


 それは()しくも乙女ゲームの悪役令嬢フローラが、断罪イベントでマッティアに言われた一言と同じであったのだ………





 マリアを騎士団本部に引き渡して、私とリアムは学園への帰路を無言で歩いていた。

 二人の目の前に長い影を落として、何とも言えない空気が漂う。

 お昼は温かかったが、日が落ちてきたら肌寒くなってきて風が吹くたび体温が下がっていく。


 リアムが私の肩にそっと自分の上着をかけてくれた。


「ありがとう…。リアムは寒くない?」

「俺は鍛えてるから大丈夫」


 きっと寒いんだろうな…と思いつつ、リアムの優しさを無下にしないようにありがたく頂く。

 リアムが風邪を引かないように少し早足で帰ろうとしたら、いきなり手を引かれた。


 え……?


 リアムは私の左手を掴み、薬指に何かを巻きつけようとしている。

 私からはリアムの頭が邪魔をして手元が見えなかった。

 不器用なのか、何度か失敗した感覚が指から伝わってくる。


 何なんだろう?と思い、やっと巻いて結び終わったリアムが顔を上げた。夕日のせいかもしれないが、リアムの顔は真っ赤に染まっていた。

 手元を見ると、可愛らしいタンポポが薬指に巻き付いている。


 これって……。


「指輪……まだあげられなくて申し訳ないけど、もう少しだけ待っていて欲しい。アンの指輪は俺が働いたお金で買いたいから…」


 リアムは真っ直ぐに私を見つめてくれる。


 染まった顔色は夕日のせいじゃ無いんだろうなと確信した。


 ここは河川敷だが、住宅街が近くじゃなかったら、愛しているって今すぐ大声で叫びたい。


「うん、待ってる。……ありがとう。リアムの気持ちもこのタンポポの指輪もすっごく嬉しい…」


 私は自分の左手を真っ直ぐに伸ばして、リアムが一生懸命に付けてくれた指輪をウットリと眺めた。

 ジワジワと心が満たされて幸せな気持ちになってくる。

 マリアが指輪を誰かに見せつけたかった気持ちが今なら分かる気がした。


 しばらくの間眺めて幸せを噛み締めていたら、


「そっ、そんなんで喜ぶとか、か…可愛いすぎるからやめて欲しい……」


 リアムは恥ずかしそうに口元に手を当てながら言った。


 リアムへの大好きが溢れて止まらない。


 私の顔も赤くなっているけれど、夕日が助けてくれている。


 周りには人の気配はない。


 この気持ちを表す方法はたった一つしかなかった。



「ふふっ、ねぇリアム……」




 ***


 この後、いつもリアムからしてくれたキスをフローラから初めてした事によって、リアムが腰を抜かすとは思いもよらなかった。


 それを見て恋愛偏差値底辺のフローラにも自信がつき、リアムの心臓に悪い日々が続いたのだった…







お読みいただきありがとうございます!


リクエストをいただけたので番外編を色々書くことができました。


また書きたいことが出てきたら更新します。


ブックマーク&評価していただいて本当に励みになりました!ありがとうございます!


つたない文章の誤字・脱字報告、本当に助かります!ありがとうございました!


※名前間違い報告していただきありがとうございます!


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