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生徒会A君

少し路線変えて、生徒会A君の目線です。ゆるいざまぁ系を目指してみました…。


 


 十二月二十四日。雲ひとつない晴天。


 この時期は街灯に加えてイルミネーションも設置されている。夜になると王都の街並みは、他の季節と比べて段違いに輝きを増していた。


 見上げた夜空の星と上から見た地上の光はどちらが綺麗なのか、身体強化と風魔法を使い空を飛んで確かめてみたんだ。


 風魔法で頭上の空気抵抗を限りなく無くして、身体強化で足の筋肉に魔力を集中させる。


 そして思い切り飛んだらね、真っ暗な大陸の隅々に光が煌めいていて、まるでどっちが夜空の星なのか一瞬わからなくなったんだ。


 地上に灯る光はお星様だったんだね。


 そう思ったら、街中でチカチカしているただ眩しいだけでセンスの欠片も無いイルミネーションも、見ていて腹立たしく無くなったよ。



「アルファルド様、何してるんですか?昨日お願いした東棟のロッカーの修繕費と明日の終業式で使用する椅子の手配の件はどうなっていますか?」


 薄紫色の真っ直ぐな瞳が少し心配そうに僕を見ていた。


 僕は暇つぶしに書いていた日記を閉じて笑顔で答える。


「心配ないよフローラ嬢。はいっ、これが修繕費の明細書と、椅子は明日の朝搬送されて、そのまま会場に運ぶよう業者に指示しているから」


 僕が手でピラピラさせて出した明細書を、白く細長い指で的確にキャッチしたフローラ嬢は少しニマリと笑った。


「安心しました。では明日の来賓される父母の方の名簿をお渡しするので茶葉と食器類の用意をして頂けますか?」


 真顔のフローラ嬢は淡々と僕に向かって話す。

 その声や表情からも、一切僕の事に意識をしていなく、効率的に仕事を回すことだけを考えているのが分かる。


「え、それって生徒会室を出なきゃならないよね?」

「…ええ、もちろん。来賓室での作業になりますね」


 一気にテンションが落ちた。


「ちなみにフローラ嬢は次何の仕事するの?」

「私も来賓室で、明日対応して下さる先生方と打ち合わせに行きますが…」

「ふぅ〜ん」


 いや、一気にテンションが上がった。


「分かったよ、じゃあ一緒に行こう」

「そうですね」


 この冷静沈着に淡々と話していたのが、フローラ・イーグス嬢。僕の一つ歳下の一年生だ。


 ちなみに僕はアルファルド・オースティン。オースティン公爵家の次男として生まれてきた。


 フローラ嬢と二人で廊下を歩きながら、僕は鼻歌を歌っていた。


「その曲…シリウス協奏曲、星の彼方ですね」


 珍しく仕事以外の事をフローラ嬢から話しかけてきた。


「そうだよ。よく知ってるね〜」

「だって、オースティン家の曲ではありませんか」

「さすが首席は違うね。特に有名な曲でもないのに」


 学年は違うが、フローラ嬢は首席入学してから一度もその座を奪われていないと聞く。


 三ヶ月前、彼女が生徒会を一度辞めて戻ってきた時に改めて思ったが、これだけ仕事を手際よくこなす人は見たことがない。


 正直に言うと、生徒会長の王太子よりも才覚がある。


 フローラ嬢は綺麗な顔とスタイルだしどこかの令嬢達と違い威張り腐らない性格なのに、近寄る男はなかなかいない。

 大抵の男たちはフローラ嬢の横に並ぶと自分を卑下してしまうし、淡々とした対応からは愛嬌が感じられないからだ。


 逆に僕はそれが好ましく思うんだけれど。


「……有名じゃないかは分かりませんが、私はこの曲が好きですわ」

「ふぅ〜ん」


 本当にそういう所もいちいち好ましい。


 さっき僕が歌ってた曲は兄のシリウスが作った曲として世間に知れ渡っているが、本当は僕が作ったんだ。


 僕の功績は全て兄のもの。


 オースティン公爵家に全て搾取される。


 そんな事を思っていたら、目の前からマリアが来た。

 彼女は明らかに「ゲッ」とした嫌な顔をした。


 あ…。予想通り、僕たちとすれ違う前に彼女は手前の角で曲がっていなくなった。


「マリアさん……」


 フローラ嬢が独り言のように呟いた。


 彼女はおそらく三ヶ月前に一度、マリアに仕事を押し付けてしまった事を申し訳無く思っているんだろう。


 そんな優しい所が好きなんだよなぁ。


 まぁ、マリアを辞めさせた原因は僕なんだけどね。


 僕は感覚的に人が何を考えているか、どういう人物なのかがすぐに分かってしまうんだ。


 生徒会の皆んなは、か弱くて愛らしいマリアに心酔していたけれど、僕は一目会った時から、彼女は自己主張が強くて気の強い女性だと分かってた。


 もしマリアが猫を被っていなければ好きになっていた可能性もあるけれど、人を騙すように生きているマリアは正直どうでも良かった。


 マリアがいるからじゃなくて、生徒会の皆んなとお茶菓子を食べながら楽しく話すのは好きだったから、流れに乗っていたんだよなぁ。


 でもフローラ嬢が生徒会から居なくなって事態は急変した。


 元々猫を被っていたマリアが仕事のキャパオーバーで素を出してしまったんだ。


 それでなくても生徒会の皆んなはマリアに教えて、マリアがまた間違えるから指摘して、の繰り返しをエンドレスでするもんだから仕事が全く進まない状態になってしまった。皆んな我慢の限界だったんだ。


 そこで僕がマリアを突っついたんだ。


「皆んなマリアの仕事の出来なさに迷惑しているよ」


 ってね。


 僕は嘘が大嫌いだから本当の事を言っちゃったけど、自分でもなんて性格が悪いんだろうって思う。


 でもそのお陰で生徒会の仕事は事なきを得たんだからしょうがないよね。

 マリアが辞めてフローラ嬢が戻って来てくれたから生徒会は崩壊を逃れたんだし。

 王太子が会長なだけに、崩壊した失態は王家の信用問題に関わり大問題になる所だったからね。



 そんなこんなで、来賓室で仕事をサクッと終わらせたら、丁度打ち合わせを終えたフローラ嬢が来た。


「まぁ、カーター侯爵家の薔薇のカップ良い選択ですわね。今年は薔薇の生産量が国内でトップになっただけに、きっとお喜びになられますわ」

「そうだといいけど。でも僕はこのカップは下品な感じがして好きじゃないんだけれどね〜」

「確かに…アルファルド様の作品とはセンスが違いますわね…」


 兄ではなくて、僕の作品……?


「……どうして僕の作品を知ってるの?」

「あ!!」


 フローラ嬢は目と口を大きく開けて固まった。口にはちゃんと手は添えられている。


 いつも冷静沈着なフローラ嬢が素を見せてくれて嬉しいし、あまりにも面白い顔をしている事に少し笑いそうになったけど、衝撃の方が強かった。


 僕は仕事でティーカップとソーサーのデザインもいくつか手がけている。

 それはもちろん僕の兄のシリウスという名前でブランド化しているんだが、気づけばなかなかの評判になっていた。


 そして僕がデザインしている事を知っている者は家族以外で一握りの業者だけだ。

 いくらフローラ嬢が大富豪で色々なコネクションを持っているからって、知る由もないはずだ。


 フローラ嬢の眉毛が垂れて顔が青くなった。


 ああ…フローラ嬢も僕に嘘をつくのかな。


 悲しいな……。


 そう思っていたら急に騒がしい声が聞こえた。


「きゃあ!アルファルド様!」


 あ〜…僕のクラスの面倒くさい公爵令嬢と取り巻き三人衆だ。


「やぁ、なんでここにいるの?」

「明日わたくしのお父様とお母様がいらっしゃるので来賓室を下見に来たのですわ。まさかアルファルド様にお会いできるなんて運命かもしれませんわね」


 こんな所で会って運命ならいつも学校で会っている皆んなも運命で片付けてしまえるだろう。…いや、そもそも人生で少しでも関わった人は運命なのか…?運命の定義は……


 迷路に迷い込みそうになった時、公爵令嬢が戸棚に仕舞われているカップを勝手に取り出していた。


「あら、わたくし、このカップがいいですわ!アルファルド様、わたくしの両親にはこのカップにして下さいませ」


 それは先程話していた薔薇のカップだった。


 因みに公爵令嬢家に選んだものは、藍色のカップに透けた星を散りばめたようなデザインだ。


「う〜ん。分かったよ。じゃあそれにするね」


 まぁ、娘がこれがいいって言うんなら、それが一番だろう。


「ダメですわ。カップの選定は終わりましたので、申し訳ありませんが今回はどうかお引き取りくださいませ」


 フローラ嬢が目上の公爵令嬢に、歯に衣着せずに言い放った事に僕はびっくりした。


「あっ…あなた、イーグス家の令嬢ね!?なによ、ちょっとお金持ってるからって調子に乗るんじゃないわよ!わたくしの両親のカップくらい、わたくしが決めてもいいじゃないの!」

「「「そうよそうよー!」」」


 お、久しぶりに聞いたな。取り巻き三人衆のソウヨソウヨ節。

 いや、そうじゃない。フローラ嬢はどうして面倒な公爵令嬢に突っかかったんだ?


「いえ、ラムレイ公爵ご夫妻はこの薔薇のカップではダメなのです」

「はっ?!貴方がわたくしの両親の何を知ってると言うんですの?!」


 公爵令嬢のおでこの血管が浮き出てきた。


 女は媚びるときは猫なで声を出すくせに、自分の思い通りにならないとすぐ怒る。そういうの本当に面倒くさいなぁ。


「まず一つ目に、ラムレイ公爵領の特産品は胡蝶蘭ですわ。薔薇など全く関係ありません。そして二つ目に、奥様が好きなお花がブルースター。お星様の様なお花で、星のデザインのカップでしたら好まれると思いますわ。そして最後に、ラムレイ公爵様は紅茶を飲まれないので今回はお一人だけコーヒーを飲まれますの。その点アルファルド様が選んでいただいたこちらのカップは藍色で、上から見てもお一人だけ違う飲み物を飲んでいると分かりにくいのですわ」

「なによ…それでも娘のわたくしが選んだって言ったらその方が喜ぶでしょう…?」


 フローラのまくし立てた正論に公爵令嬢はたじろぎ出した。


「いえ、それでもこちらのカップには叶いませんわ。このシリウス製品のカップには一つ面白い細工がしてありますの」


 そう言ってフローラ嬢はポットから綺麗な手つきで藍色のカップへとお茶を注いだ。

 藍色のカップに散りばめられた星は透明に透けていて、そこにお茶を入れた事により温まって透明から白金色へと変化する。


 アルファルドは自分でデザインしたカップだけど改めて綺麗だと思った。


 僕の好きな白金色の星は、まさにフローラ嬢の髪の色と同じではないか。


「ちなみにシリウス製品のカップは王家御用達で入手困難ですの。それら全てを考慮してアルファルド様がお選びになったのですわ」

「ぐっ……」


 公爵令嬢はぐうの音も出ずに「覚えていらっしゃい」と言って去っていった。


 取り巻き三人衆のソウヨソウヨ節が一回だったのは、僕の知る限り今回が初めてなんじゃないかなと思う。


 僕は公爵令嬢を撃退したフローラ嬢に拍手をした。


「フローラ嬢がそんなに詳しいとは思わなかったよ」

「いえいえ、アルファルド様には敵いませんわ。いつも来客の準備は完璧ですもの。本当に助かりますわ」


 公爵令嬢を上手く撃退して忘れてしまったのか、さっきの困ったように青い顔だったフローラ嬢は、少し上気したピンク色の頬で達成感のある笑顔になっていた。


 僕はそれを崩すのは嫌だったけど、どうしても知りたかった。


「ねぇフローラ嬢、僕の作品って何で…」

「ひぃ!!」


 思い出したのか、またフローラ嬢の目と口が大きく開かれた。

 あの勇ましい熱い答弁の後に、なんて間抜けな顔をするんだろう。

 僕はついにそれに耐えられなくて笑ってしまう。



 ひとしきり笑った後で、フローラ嬢が話しかけてきた。


「アルファルド様…シリウス作品の情報源はどうしても話せません。ですが、情報を知っているのも私だけです。誓って本当です。ですから情報源をお話し出来ない分、私の秘密をお話ししますので許して頂けませんか…?」


 フローラ嬢からは嘘を感じず、僕は何故かドキドキしていた。


 フローラ嬢の頭にもし大きな可愛い耳が生えていたら、今はおもいっきりぺたんと垂れていただろう。


 何なのこの子。ギャップが凄くて可愛くて抱きしめたくなるとか初めての気持ちだよ。


 それは誠実で媚びることのない素のフローラ嬢だからなせる技なんだろうな。


「クスクス…。いいよっ。で、秘密って何?」



 この日聞いた秘密は、今や学園で一式使用していて王都内でも販売している文具類を、全てフローラ嬢が考案しているというものだった。


 そして僕と同じく自身の功績は広まっておらず、それは彼女自身が隠しているという事実を聞く。


 僕は家督を継ぐ兄の名誉と名声の為に自身の創り上げた作品を利用され、搾取され続けていた。

 それは自分ではどうにも出来ない事だし諦めて平気なふりをしていたけれど、年々心の奥底に黒くて嫌なものが溜まっていって苦しくて仕方がなかった。


 だけどフローラ嬢の謙虚な姿勢と、名誉や名声には微塵も興味がない様子を見て、ずっと僕を苦しめていた黒いものが、何だかちっぽけなものに感じてしまったんだ。


 僕の中で何かが楽になったと共に、それからは彼女を尊敬するようになる。


 そしてフローラ嬢の考案した文房具に、僕が…アルファルドとしてデザインしたコラボ企画が今後実現して大ヒット商品になるなんて、この時には思いもしないだろう。


 フローラ嬢が誰を好きなのかは見ててすぐに分かっちゃったから、残念ながら僕のこの恋は叶わない。

 だけど生徒会の仲間としてでいいから、いつか彼女に地上の星を見せてあげたいなぁと思ってしまうんだ。



 それくらいいいでしょ?



 ん〜〜、リアム・フォードは嫉妬深そうだから無理かなぁ……








フローラは前世の乙女ゲームの記憶でアルファルドの生い立ちを知っている設定です。


お読みいただきありがとうございました!

ブックマーク&評価をこんなにしてもらえるなんて驚きです!ありがとうございます!

感想&誤字脱字報告も感謝です!


もう少し番外編は続きますのでよろしくお願いします。

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