〈9〉美少女と銃
やはり、美少女と銃は良く似合う。
呆然とした俺の脳内に、そんな言葉がよぎっていた。
目の前で起きている現象への理解を脳が拒否しているような気さえする。
「ほぉ……。"発現”は出来るのか」
心底感心したような声を漏らして、宇堂先生が楽しげに微笑んでいた。
チラリと背後を流し見た宇堂先生が、美少女に向けて手招きをする。
「良いぜ、来な。殺して見せろ」
ニヤリと笑った宇堂先生が、なぜか手元にあった出席簿を開いた。
銃を構える美少女から視線を逸らして、手元の資料に目を向ける。
「バカにしているのかしら?」
「そう見えるのなら謝罪しよう。弱いヤツで遊ぶような趣味はなくてな」
「……そう。わかったわ。さようなら」
芯から冷え切った声に続いて、美少女がトリガーに手をかけた。
激しい音が周囲に響く。
とっさに耳を塞いだ俺の目の前で、銃口から小さな何かが飛び出していた。
「なるほど、榎並 京子か。……威力も速度も、まだまだ赤点だな」
出席簿を下ろした宇堂先生が、半身になって右手を前に出す。
何かを掴むように軽く手を振り、握ったこぶしを美少女に向けて突き出した。
「銃をメインに扱うのなら速度が最も大切になる。弾のスピードが遅ければ対処されると思え。……このようにな」
宇堂先生の手の中から、銃弾のような金属の塊が姿を見せた。
「っ……!?」
美少女の瞳が、こぼれそうなほど大きく見開く。
「そんなこと、あるはずがないわ!」
もう1度銃を握りしめて、美少女が奥歯をグッと噛み締めた。
手の中に光の粒が集まっていく。
「ほぉ、連射速度は及第点だな」
「死になさい!!」
トリガーが引かれ、宇堂先生がおもむろに眼鏡を外す。
目では追えない何かをグーで殴り飛ばして、先生が前に出た。
2人の距離が、急激に縮まっていく。
「嘘よっ!!」
3発目が放たれ、先生が首をひねる。
はるか後方にあった来賓用のパイプ椅子が、激しい音と共に弾け飛んだ。
床には親指サイズの穴が空き、焦げたような臭いが漂ってくる。
目の前で何が起きているのか。
理解がいっこうに追い付かない。
「足止めや命中だけを考えるなら、頭よりも体を狙え。もっとも、4発目を撃つ暇はなさそうだが」
「ぃっ……!!」
2人の体が急激に接近し、宇堂先生が拳銃を殴り飛ばす。
握られていた拳銃が、床の上を転がって行く。
それまで見ていた物が幻であったかのように、拳銃が溶けるように消えていった。
グッと歯を食いしばった少女が、担任に向けて拳をにぎる。
「まだよっ!」
宇堂先生めがけて、殴りかかる。
その瞳はまっすぐに、ただ前だけを見続けていた。
「得物を落としても、闘志は衰えないか……。その威勢だけは買ってやろう」
「きゃっ……!」
宇堂先生が足を払い、可愛らしい声と共に美少女が床に倒れ込む。
先生の手が美少女の手首を掴み、背中の方向にねじられた。
「残念だが、俺を殺すには役者不足だったな」
いつの間にか握りしめていたナイフを美少女の首筋に当て、宇堂先生がニヤリと微笑む。
「くっ……」
美少女の額からは、異常な量の汗が流れ出ていた。