〈70〉
「柳さんたち国の上層部は、俺たちに“力”を覚えさせて、ここの解析を進めたかった。そうですね?」
「……あぁ、その通りだよ。それがどうかしたのかね?」
「いえ、確認ですよ。将吾も橘理事長も信頼出来ますが、盲目に信じるのは違いますから」
口の中で小さく笑って、俺は柳に向ける拳銃を握り直す。
「問題はその後ですよ。解析を進めて、“力”を蓄えて、どうするつもりですか?」
「おや、それは意味のある質問かい? “力”のある者が次にすることなど決まっているだろ? 支配だよ」
口元をゆがませた柳が、穴の下にある宝石の町を流し見る。
両手を大きく広げて、楽しげに笑って見せた。
「このビルも、もとは魔物の巣窟でねぇ。それが今では、3階までの“支配”が終わったよ。
素晴らしいと思わないかな?
ここを分析して“力”を得た。宝石の町も我々に“力”をもたらすのだよ。次は簡単そうだ。知性のある者を監禁でもすればすぐに新たな“力”が得られそうだ」
どこまでも傲慢で、どこまでも排他的に、
「人類は常に進化している。我々こそがこの世界を支配するにふさわしいと思わないかね?」
すべてを見下すような色を瞳に浮かべた柳が、楽しげに笑い続ける。
自分こそが神だとでも言うような、そんな仕草。
やはり彼を好きになることなど出来そうもない。
「おっと、忘れていたよ。これもこのビルの成果だったね」
そんな言葉と共に、柳がポケットからビー玉を投げ捨てた。
柳がその場を飛び退いて、ビー玉から距離をとる。
「なるほど、化物は俺たちを支配するために使うんですね」
「その通りだよ。ちなみにだが、支配する我々に君たちは含まれて居ない。支配は特権階級だけに許された“力”だからね」
膨れ上がるビー玉の向こうから、不快な声が聞こえていた。
天井に届くほどにまで膨らんだビー玉が砕け散り、中から化物が姿を見せる。
それは入学式の日に、体育館で見たティラノサウルスに似た化物。
「セーフティーは解除してあるよ。安心して、死ぬと良いよ」
ーーGrooooooooooo!
柳の声に応えるかのように、化物が甲高い叫び声をあげていた。
「将吾、時間は?」
「20分ある。俺はここを離れられねーぞ?」
「わかってる。任せておけ」
将吾に助けられたらあの時とは、違うからな。
そんな言葉を飲み込んで、俺は迫り来る化物目掛けて走り出した。
拳銃を消して盾を構える。
かみ殺してやるとばかりに迫る化物の牙が、盾とぶつかり合って、体全体に強い衝撃が駆け抜けていった。