〈68〉
「行くのです!」
「きゃっ!?」
ネネが石に手を触れると、地震のような揺れが俺たちをおそった。
体が淡い光に包まれて、ひび割れた床が崩れ落ちていく。
光の玉が俺たちの体を包み、ポッカリとあいた穴の中へと落ちていった。
体は……、金縛りにあったかのように動かない。
「あー……、声は出せるんだな。これがエレベーターか?」
「はいなのです。上にも下にも行けるのですよ」
「そうか……」
ふと足下を見れば、次の階の床が崩れ落ちていた。
1階、2階、3階と、俺たちの体がビルの中を進んでいく。
周囲は薄暗いばかりで見渡すことなど出来ないが、どの階層も作りは変わらないらしい。
時折何者かの遠吠えが聞こえるものの、姿を見ることは無かった。
「着いたのです」
落ち続けていた感覚がなくなり、足先がふわりと地面に降り立つ。
見えるのは、むき出しの地面と、崩れ落ちたコンクリートの破片たち。
隕石の衝突で出来たクレーターに、コンクリートの天井を取り付けた。そう表現したくなるような場所だった。
地面から生えているのは、水晶か、ダイヤモンドか。
ルビーやサファイア、トルマリンなどに似た半透明の物体が、タケノコのように地面から延びている。
そんな場所の中央には、空間を切り取ったかのような穴がポッカリとあいていた。
「みなさんのおかげで帰って来れたのです」
見ているだけで不安をあおるその穴を見つめて、ネネがほっと安堵の息を吐き出した。
恐る恐る穴の中をのぞき込むと、5センチくらいの厚みの下に、夜空が広がっていた。
「なんともまぁ……。あれがネネの町なのかな?」
「はいなのです。あの大きなお城にお姉ちゃんも居るのですよ」
ネネが指差した先にあったのは、全体をルビーで作ったかのような、光り輝く宝石の建物。
周囲の家々も宝石らしきもので出来ており、よく見れば、庭に生える木々や草花も宝石で出来ているように見えた。
「いや、むしろ逆か?」
木々が宝石だから、それを素材にした家も宝石なのだろうか?
「幻想的できれい……」
穴の中を見つめた結花が、ほぅ、と吐息を漏らしていた。
まぁ、理屈なんて今は脇に追いやろう。
「ここに飛び込めば良いのかな?」
「はいなのです! でも……」
不意に見上げた彼女に釣られて、思わず視線を天井へと向ける。
そこには俺たちが降りてきた巨大な穴があって、他はもはや見慣れたコンクリートの天井だった。
「??」
視線を戻したものの、ネネは天井の穴を見上げたまま。
「……誰かが降りてきてますです」
そんな言葉と共に、将吾のポケットから呼び出しを告げる電子音が鳴り響いた。