〈6〉転職をした最初の日2
「あら? 今度はホンモノの先生みたいですわね」
「あー、ほんどだー」
声のあがる方へ視線を向けると、赤フレームの眼鏡を身に付けた美人教師がいた。
胸元に白の大きなリボンを結び、紺色のスーツから綺麗な手足が伸びている。
彼女に出席簿とチョークを持たせたら、きっときれいな絵が仕上がると思う。
「式の準備が整いました。新入生のみなさんは一列に並び、私の後について来てください」
思い思いに散らばっていた高校生たちが、互いに顔を見合わせて列を作り始める。
校舎の裏手から体育館へ。
土足のまま体育館に入り、先頭の美人教師が一礼をした。
「前の方から詰めて座ってください」
彼女はそれだけを言い残して、教員が座っているであろう席に向けて歩いて行く。
中央には誰も座っていない椅子が並び、後方にはマスコミらしきカメラの軍団が列を成している。
先頭の生徒を中心に、まぶしいほどのフラッシュがたかれていた。
「……すげーな」
誰ともなく、そんな声が漏れ聞こえる。
来賓席には、テレビで見たことのある人々の姿があった。
その中でも驚きなのが、日本国総理大臣だろう。
新設された、総理肝いりの事業。
橘さんからそう聞いてはいたが、偽りはなかったらしい。
「可愛い子が多いのも本当だったしな」
「ひぅ……!!」「……変態ね」
心の声がもれていたのか、前と後ろにいた子が、ほんの少しだけ俺から距離を取った。
突き刺さる視線が程よく痛い。
『でもでも、本当に美少女が多いから仕方ないよね、私も含めて♪』
そんな言葉で許して欲しく思う。
「あの……、おとなり、失礼しますね」
そうして俺が現実逃避をしていると、不意にショートカットの可愛らしい少女から声をかけられた。
彼女は俺の右隣に腰を下ろして、なぜかホッと胸をなで下ろしている。
小脇に抱えた鞄に付いたガイコツのキーホルダーが、俺のすぐ側で揺れていた。
「…………失礼するわ」
左隣には、鋭い視線を帯びたポニーテールの美人な少女が腰を下ろす。
気が付けば、前後左右のすべてが美少女だった。
たしかに、前の職場とは比較にならないほど幸せな環境らしい。
「これより、国立 冒険者サポート 専門高等学校 の入学式を執り行います」
聞き取りやすい声に続いて、総理大臣までもが頭を下げる。
理事長の挨拶に移り、シルバーグレーの橘さんが壇上にあがった。
不意に、マイクを前にした橘さんと視線が混じり合う。
『サングラスはどうしましたか?』
彼の唇がそう動いた気がした。
反射的に胸ポケットに手を伸ばし、視線をサングラスで覆う。
やはりそれが正解だったのだろう。
橘さんが目を細めて、満足そうになずいてくれた。