〈60〉
「来たか」
「宇堂先生……?」
4人で向かった正門の前には、自衛隊の車が何台も止められていて、迷彩服の男たちが慌ただしく動き回っていた。
そんな人々の中から見慣れたスーツに身を包んだ宇堂先生が、俺たちの前に姿を見せる。
「詳しい説明は俺が引き受けた。こっちだ」
普段よりもお堅い雰囲気で背を向けて、校舎の中へと入っていった。
俺たちも顔を見合わせながら、先生の背中を追いかける。
(どこにでも耳があると思え。迂闊なことは話すな)
周囲を見渡した宇堂先生が、振り返る事もせずに、小さく言葉を紡ぐ。
(全員が榎並さんの口封じを考えていると?)
(いや、それは無いだろうが……、詳しくは後だ)
(……わかりました)
そうして連れて行かれた先は、校舎の一階にある何もない部屋。
入学式で貰った案内図には、予備教室と書かれていた部屋だと思う。
ドアの窓から中をのぞくと、なにやら迷彩服の男たちが、床板をめくっている最中だった。
そんな男たちの中心に、見慣れない物がある。
「あれの先が今日の仕事場だ」
「…………」
つやつやとした黒い石の階段が、地下へとのびているように見える。
大きさは宇堂先生の肩幅よりも、少しだけ大きい程度。
それだと言うのに、言葉に出来ない存在感が漂ってくる。
ドアの前で振り向いた宇堂先生が、俺たちひとりひとりに視線を向けた。
「手短に話そう。今日の任務は、命の危険が伴う。最優先は自分自身だと肝に銘じておけ。行くぞ」
そして質問する暇もなく、俺たちは部屋の中へと通される。
「…………」
無言の圧力が、迷彩服の男たちから飛んで来るものの、一瞬の後に戻された。
誰しもが石の階段を見つめて、表情を引き締めている。
「時間だ。突入する」
中央の男がつぶやいて、階段の下へと降りていった。
互いに顔を見合わせながら、全員が下へと消えていく。
「俺たちは、五分遅れての出発となる」
そうしてきっかり5分後に、俺たちは石の階段の中へと足を踏み入れた。
「……!?」
はじめに感じたのは、昼間のような明るさ。
それに続いて木漏れ日のような暖かさを感じる。
螺旋状に続く石の階段の周囲には、なぜか空があって、流れる雲の切れ間から太陽の光が降り注いでいた。
俺たちは天使か神か。
天国への階段を下っているようにも思う。
「ここは……?」
「ダンジョンの入口だ。離れずに周囲の警戒を続けながらついて来い」
「……わかりました」
先を進む宇堂先生や榎並さん、それに将吾の3人は、それが当たり前だとでも言うような雰囲気で歩みを進めている。
俺たちの後から入ってきた男たちを含めでもっても、驚いているのは俺と結花だけのようだ。
ふぅー……、と大きく息を吐き出して周囲を見渡す。
感覚としては、東京タワーの階段を下りている感じだろうか?
そう思えば、まぁ、常識の範囲内と言えなくもない。
「少し進むと、とあるビルの屋上に出る。その先が人類の希望だ」
含みのある声音で、宇堂先生がそう呟いた。