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「誰もいない、な……」
「はい。不思議な物音もないです」
すこしだけ小さくなった結花のドクロと背中を合わせて、俺はホッと息をはく。
ほんの少しだけ高い位置にいる結花と視線を合わせながら静かに頷いた。
チラリと流し見た手元の画面も、周囲と同じように静まりかえっている。
「始めちゃいますね」
そんな言葉と共に、結花がすー……、と息を吸う。
大きなドクロの上に座りながら彼女が杖を持ち直すと、不意に淡い光があふれ出した。
光は次第に2つの塊に別れて、大きな羽へと姿を変える。
「「キュァ!」」
中から出てきたのは、2匹のコウモリ。
この1ヶ月で会得した、結花の使い魔たちだった。
「シロちゃんは前で、ツキくんは後ろをお願い出来る?」
「「キー!」」
了解、とでも言うように、1匹が俺たちを先行して前に出る。
もう1匹が背後へと回ってくれた。
「明るくしますね」
結花が軽く目を閉じて、ふぅー……、と細く息を吹きかけていく。
キラキラとした光りがコウモリたちの周囲を回り、提灯のように周囲をぼんやりと照らしてくれる。
物がなくなったロッカーに、ホコリだらけの机。
そこにはやはり、モンスターの姿はなかった。
「1階からしらみつぶしだな」
「そうですね」
コウモリ、俺、結花、コウモリ。
そんな順番でビルの中を進んでいく。
1階が終わり2階へ、3階へ……。
ガランとした部屋が各フロアに4つずつあるらしく、すべてを順に見て回った。
そして、4階に続く踊場で思わず足を止めて上を見る。
「ひぅっ……」
「あー……、なるほど。殺気を隠す気もないわけか」
そこから先に見える空間が、他とは明らかに違って見えた。
嫌な緊張感が背筋を流れていく。
背後でドクロに乗る結花も、顔を青くして杖の影に顔を隠していた。
「さてと、ここからが本番だね……」
拳銃を軽く握りなおして、ゆっくりと階段を上っていく。
曲がり角の壁に張り付きながら、チラリと先に目を向ける。
見えてきたのは、これまでと変わらない長い廊下と壁際に寄せられたダンボールの数々。
その先に、赤黒い甲冑に身を包んだ化物の姿があった。
見るからに敵意を放つソイツの手には、巨大な2本の剣が握られている。
『結花、見えたか?』
『はい。ドローンのカメラが捉えてくれました。闇騎士と呼ばれるモンスターですね』
『騎士か……』
どう見ても堅そうな鎧に、重たそうな2本の剣。
廊下の天井にコウモリが張り付いたおかげで敵の姿をより鮮明に見れるようにはなったが、見れば見るほど強敵に見えて仕方がない。
(すげー、マジモンの化物)
(待ち受ける姿とか、中ボスっぽくね?)
(もしかして、魔女っ子のスカートをあの剣で……!?)
(衣服に切れ込みは常識!)
流れるコメントもなかなかに盛り上がっていた。
衣服を溶かす敵と戦った男のクラスメイトが、なかなかの視聴率を稼いだらしいが、さすがにそれは許容出来ない。
「本気で戦い、それでも見えるから価値があるんだろ!」
ちょっとだけ熱くなりながら、俺は曲がり角を飛び出していく。
騎士という割には構えすら取らない化物めがけて、俺は拳銃のトリガーを引き絞った。
「ーーちっ!!」
初弾が兜にはじかれ、剣で切られて、身を屈めて避けられる。
それでも構わずに、俺は前へと進みながら銃弾を撃ち続けた。




