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<53>

 肩を撃たれてから1ヶ月が経ったその日。


「ここかな?」


「はい。……たぶんですけど」


 学校から届いた案内に目を落とす結花と肩をならべながら、俺は明かり1つない5階建てのビルを見上げていた。


 時刻は夜中の1時を少し過ぎたくらい。


 場所も大通りからはずれているため、辺りにいるのは俺たちだけだった。


 街灯から漏れ出る小さな音だけが、俺の耳に聞こえている。


――――――――――――――


受注クエスト


武蔵浦和(むさしうらわ)駅 近くのビルに出没する魔物の討伐


危険度 Cランク


――――――――――――――


 手元には、そんな文字が浮かんでいた。


 ペアを結成してから初めてとなるクエストは、真夜中の生放送。


 ケガと特訓で1ヶ月も休んだ結果、学年で最下位となった俺たちに選べる唯一のクエストがこれだった。


 何人ものクラスメイトを返り討ちにしたモンスターと、視聴者のいない時間帯に戦う。

 言ってしまえば、最低賃金の夜間勤務だ。


 だけどまぁ、不人気な方が下手に反応を意識しなくて良い分、復帰戦にはちょうどいいと思う。


 少しだけ違和感の残る肩をゆっくりと回した俺は、スーツのポケットからサングラスを引っ張り出して瞳を覆った。


「始めようか。準備は良いかな?」


「わわっ、ちょっと待ってください」


 手元の文字を消して、結香がわたわたと胸ポケットに手を伸ばす。


「……うん。大丈夫です」


 妹たちからのプレゼントだと言うガイコツのキーホルダーをぎゅっと握りしめて、結花が小さく微笑んでくれた。 


 そんな彼女の頭に手を伸ばして、ふわふわの髪を優しく撫でる。


「普段通りの結花で大丈夫だよ。キミの可愛らしさを視聴者にも見せてあげよう。本当は俺だけの秘密にしたいんだけど、それはそれでもったいないからね」


「は、はい……」


 手のひらの影で頬をほんのりと赤らめた結花が、すこしだけ視線をそらしながら頷いてくれた。


 そんな可愛らしい彼女から視線を外して、ここまでガラガラと引っ張って来たキャリーバッグに手を伸ばす。


 静脈認証に続けてボタンを押すと、パカリと開いたバッグの中から、4機のドローンがふわりと飛び立った。


 ゆっくりと視線の高さにまで舞い上がり、俺や結花の周囲をグルグルと回り始める。


 結香が右手を大きく掲げると、取り付けられたカメラが結花の姿をとらえた。


 ドローンたちに赤いランプが灯り、結花がすこしだけ胸を張る。


「皆さん今晩は。1年2組の水谷 結花(みずたに ゆか)です。今日は武蔵浦和から生放送でお送りします」


 普段通りの可愛らしい笑みを浮かべて、結花がカメラに向かって話しかける。


 そんな彼女の姿を横目に手元を流し見ると、『閲覧数2人』と言う文字が浮かんでいた。


ーーまどか、まな、ゆい、お姉ちゃん、頑張るね。


 そう小さくつぶやいて、結香がキーホルダーをふわりと浮かべる。


 結香の体をキラキラとした光が覆った。


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