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<47>同級生の昔話

「ぅっ!?」


 まどろむような意識の中に、小さな痛みが襲ってくる。


 薄らと目を開くと、なぜか可愛らしい少女の――結花の寝顔が目と鼻の先にあった。


 俺の手にすがりつくように上半身をベッドに預けて、結花が小さな寝息を立てている。



 白を基調にした天井や壁、薬品の匂いが染みついたベッド。

 俺が寝転ぶベッドの周囲が、薄いカーテンで仕切られている。


「学校の、保健室かな?」


 そんな空間だった。


 周囲は異様に薄暗く、閉じられたカーテンの隙間からは街灯らしき光がもれている。


 もし今が夜ならば、8時間は眠っていたのだろう。


 結香の目尻にはうっすらと涙が貯まり、頬にも流れ落ちたような跡が見えていた。


 痛みを訴える体をゆっくりと動かして、彼女の髪に優しく触れる。


「心配をかけたみたいだね……」


 指先を小さく手を動かすと、ぎゅっと閉じられていたまぶたが、ほんの少しだけ緩んだように見えた。


 俺が銃で撃たれたと知り、駆けつけてくれたのだろうか?


 クラスメイトと話し合いに行くだけ。ひとりで大丈夫だよ。などと言った結果がこの有り様だ。


 結花が目を覚ましたら、なんと言って謝ろうか……。



「あら、ようやくのお目覚めね」



 そんな事を割と真剣に悩んでいると、カーテンの隙間から榎並さんが姿を見せた。


 口元を小さく緩ませながら、彼女が俺のそばまで歩み寄る。


「3日も眠り続けるなんて、本当に死んだかと思ったわ」


「……3日?」


「えぇ。時折うめいていたわよ?」


 どうやら予想以上に時が進んでいたらしい。


 軽く髪をかきあげた榎並さんが、軽くペットに腰掛けて、可愛らしく眠る結花の肩に手を触れる。


「彼女には感謝しておきなさい。ずっと側で声をかけ続けていたわ」


 あの時見せた優しい瞳が、結花のことを見下ろしていた。


 そんな榎並さんの肌艶も、どことなく疲れて見える。


「……榎並さんにも迷惑をかけたようだ」


「本当よ。その責任をとって死んで欲しいのだけど、さすがに病み上がりだから殺さないでいてあげるわ」


「……それは助かるよ」


 なんとも不思議な彼女の言い回しに、思わずクスリと肩が震えた。


 そんな俺の動きをとがめるように、榎並さんはプイっと俺から顔を背ける。

 その手はずっと、結花の髪に触れていた。


「それにしても、3日か……」


 小さくつぶやきながら、自分の肩に目を向ける。


 石膏のような堅いもので覆われながら、布できつく縛られていた。


 ほんの少しでも動かせば、全身を信じられないほどの痛みが駆け抜ける。


 だけど、それだけだ。


「生き残れたんだな。榎並さんも、俺も……」


 そう小さくつぶやいて、ホッと息を吐き出した。


 疲れているようには見えるが、榎並さんに怪我はない。

 結花もただ眠っているだけで、あの場に駆けつけてくれた宇堂先生も、あの様子なら大丈夫だと思う。


「詳しい話は聞かせてもらえるのかな?」


「……そうね。これでも責任は感じているのよ。担任には連絡したわ。話はそれからでもいいかしら?」


「わかったよ。……彼女には?」


「本人の意志次第ね」


 起きる気配のない結花を流し見る。


「……ん?」


 彼女の手の中で、小さなガイコツのキーホルダーがぼんやりと光って見えた。


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