<46>同級生と銃弾4
彼女の言葉を素直に聞けば、俺は彼女の事情に巻き込まれただけ、そう言うことになるだろうか?
「榎並さんが、狙われている。そういうことかな……?」
「えぇ、確証はないのだけど、心当たりはあるの」
命を狙われる心当たり。
突然、銃弾で撃ち抜かれる心当たり。
「そうか……」
どうにも俺の知らない事が多すぎる。
「喋らないで。血が流れるわ!」
血の気の引いた表情で戻ってきた榎並さんが、俺の体を必死に押さえつける。
うつむいた視線が、悲しげに揺れていた。
「なんで、私なんかを……。守らないでよ。勝手に、死なないでよ……」
ずっと見え隠れしていた鋭さは消えて、年相応の表情だけが浮かんでいる。
守るな。死ぬな。私の気も知らないで、か……。
とりあえずは、命が助かってから考えようか。
「敵は、ひとり、か?」
「……わからないわ。でも最低2人はいると思う」
それは悪い知らせだな。
狙われているのは彼女で、俺を殺すことにもためらいはない。
敵が複数人なら、こうして隠れている間に回り込まれる。
逃げようにも俺は満足に動けず、彼女は意地でも俺を見捨てたりはしないだろう。
「わかった、だったら……」
「だから喋らないで!! お願いだから……」
悲鳴のような彼女の声が、小さく聞こえていた。
「いちかばちか、――」
敵に突撃をかけようか。
そう提案しようとした矢先、
「2人とも無事なようだな。遅くなった」
いつの間にか、宇堂先生が俺たちの側にたたずんでいた。
「先生……」
「っ!!」
驚く俺を尻目に、パッと振り向いた榎並さんがナイフを振りかざす。
「やはりそういう反応か……」
より一層表情を険しくさせた宇堂先生が、飛び込んでいく榎並さんの細い手首をつかみ取った。
暴れるように振るわれた左手も、同じように手首を捕まえる。
「現状においては悪くない判断だ。だが安心しろ。俺はおまえらの担任だ」
「だからなに!? 担任だからって――」
「宇堂めぐみ。その父親でもある」
「っ!!!!」
不意に、榎並さんの顔に驚きの表情が広がっていく。
宇堂めぐみ……、聞き覚えのない名前だ。
宇堂先生の、娘……??
「目的が同じとは言わないが、相反するとは思ってはいない」
「…………」
状況が読めない俺を尻目に、榎並さんは暴れることをやめていた。
握られていたほどかれて、彼女の手がだらりと下がる。
「先生、私のせいで彼が……」
「案ずるな。その程度でやられるような鍛え方はしていない」
チラリと俺の姿を流し見た宇堂先生が、桜の幹に背を付ける。
手の中に巨大なライフルを"発現"しながら、榎並さんと同じようにチラリと敵の様子をのぞき見る。
「…………逃げたか」
銃口を地面へと下ろし、にらみつけるような視線を自分の手のひらへと向けていた。
手の中か銃を消し去り、先生が俺の肩を抱き上げる。
「意識はあるか? 肩の痛みは?」
「な、なんとか……」
「そうか。遅くなってすまない。目を閉じて体内にある"力"を集めろ」
「わかり、ました」
先生に言葉に従って、盾を取り出すときのように腹にある暖かさを肩に引っ張り上げる。
「今は静かに眠れ。詳しい話は目覚めてからだ」
薄れ行く意識の中に、そんな声が聞こえていた。