<43>同級生と銃弾
俺と榎並さんとの間を金属の板としか呼べない物が遮っている。
初日の授業時より数倍大きくなったものの、形や色はそのままだった。
「槍も銃も使えるはずよね? なぜ盾なのかしら?」
「なぜ、と聞かれても。可愛いクラスメイトを刺したり撃ったりする訳にもいかないからね」
榎並さんの指摘通り、武器の類いを"発現”することも出来る。
だが、こればかりは性分なのか、盾を持って走り回る戦い方が俺には一番合っているように感じていた。
盾の表面に"力"を流して、盾を透明にする。
見えてきた榎並さんが、なぜか泣き出しそうな表情を浮かべて、下唇を噛んでいた。
おや? と思った瞬間に、彼女が地面を蹴る。
「確信したわ。やっぱりあなたは死ぬべきね」
太陽を背にして大きく飛び上がった彼女が、スカートをなびかせながら銃口に力を集めた。
一瞬の後に、銃弾が放たれる。
慌てて盾を持ち上げた俺の腕が、小さな衝撃を受けた。
「当たりなさいっ!」
苛立ちを隠そうともせずに、彼女が2発、3発と銃弾を撃ち込んで来る。
盾に銃弾がぶつかるたびに体勢を崩しながらも、盾の位置だけは変えずに抑え続けていた。
「なっ……!?」
彼女はそのまま俺の盾へと突っ込み、彼女が大きく足を伸ばす。
視界の半分が彼女のスカートに覆われて、彼女の足が俺の盾を挟み込んでいた。
「死になさいっ!」
俺が握る盾にまたがったまま、彼女が素早くトリガーを引き絞る。
「っ!!」
慌てて愛用の盾を手放し、持ち手を蹴り飛ばすように後ろへと飛んだ。
間一髪のところで、銃弾が足下の土をえぐっていく。
ハッ、と顔を上げれば、俺の盾を遠くへと蹴り飛ばし榎並さんが、ニヤリと笑っていた。
だけどそこには、戦いを始める前ほどの余裕は感じない。
「今のを避けるなんて、私の予想以上ね。賞賛に値するわ」
不敵な笑みを見せながらも、額には大粒の汗が浮かんでいる。
彼女のトレードマークである可愛らしいポニーテールも、今はどこなくしおれて見えた。
「光栄だね……。それで? まだやるのかな?」
「もちろんよ。あなたが死ぬまで続けるわ」
心の底から楽しそうに笑いながら大きく息を吸い込んで、彼女が細身の片手剣を"発現”させる。
体に染みついたような動きで軽く剣を振るい、いつの間にか、切っ先を俺の方へと向けていた。
その手には、今までずっと握りしめていた拳銃の姿はない。
「弾切れかな?」
「いいえ、まだまだ撃てるわ。でも、せっかくだからこちらでお相手してあげる」
鋭い視線を保ったまま、彼女は額から流れ出す汗を小さく拭う。
銃は威力や飛距離が優れる代わりに、より多くの"力”を使い体力を消耗する。
強気に微笑んではいるものの、榎並さんの姿を見る限り、銃は打ち止めだろう。
だけどそれは、僕だけが有利と言うわけではない。
「得意の盾はもう使えないわよ。さぁ、殺し合いましょう」
もう一度大きく息をして、彼女はほんの少しだけ腰を落として見せた。