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<36>楽しげな呼び出し2

「俺は優秀で、彼女は優秀じゃない。そういうお話ですか?」


「その通りだ。キミは入学テスト以降、1位に君臨し続けている。そのペアが落ちこぼれでは、全体の視聴者数に大きな影響を及ぼすのだよ」


 どこまでも威圧するような態度で、柳が口元を緩ませていた。


 その態度を見ていると、やはり反感を覚えてしまう。


「柳さんとしては、誰と組むのが良いと思われますか? やはり榎並さんですか?」


「榎並? ……知らん名だな」


「…………」


 もれかけた声を飲み込んで、柳の瞳を見詰める。


 しきりに首をかしげながら、手元の資料を見返しているあたり、本当に知らないようだ。


「まずは、相場 将吾だな。次点で神原 優香。どちらも優秀な成績を収めている。キミとの関係も良好だと聞いているが?」


「えぇ、まぁ。優秀な点には同意しますし、仲良くさせて頂いてますよ」


 ルームメイトの将吾はいわずもがな、クラスのムードメーカーで頭の良い神原さんは素直に良い人だと思う。


 だがやはり、柳は所詮その程度だ。


 彼の頭の中には資料で見た情報しかないのだろう。


 もしかすると、座学を含めた点数しか見ていないのかも知れない。


「だとしても、やはり俺は、水谷さん――水谷 結花が、クラスメイトの中では1番優秀だと思いますよ。無論、こんな俺よりもはるかに」


 それが俺の本音だった。


 無論、将吾が悪いわけじゃない。


 それ以上に、彼女の姿が光って見えた。


「ふん、何を馬鹿なことを。これを見たまえ。座学は最下位、実技は最低限の"力”すら感知できず。担任が付けた総合点は、29位を大きく引き離しての最下位だ」


「えぇ、現時点ではそうでしょう。宇堂先生も現状(・・)を査定するのであれば、そう書くしかない」


「……何が言いたい?」


「あなたが見ている数字ではわからない事が沢山ある。そういう話ですよ」


 柔らかなソファーに身を沈めて、ニヤリと笑って見せた。


「彼女は誰よりも努力をしている。クラスメイトに、いや、俺に大きく引き離された初日の実技以降、彼女は日が暮れるまでグラウンドを走り続けていた。限界まで走るのが1番の近道だという宇堂先生の言葉を信じてね」


 お昼休みや放課後はもちろん、早朝も彼女が走る姿を食堂から眺めていた。


 "力”を感知できない最後の1人になってからは、より長い時間を1人で走り続けていた。


「決してくじけない。前だけを見て走り続ける。努力をし続ける彼女は、誰よりも優秀ですよ。部屋でビールを飲んで幸せを感じていた俺より、はるかにね」


 ふー……、と大きく息を吐いて、俺は小さく肩をふるわせた。


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