〈3〉不思議なスカウト3
月明かりに照らされた大きな黒板に、規則正しく並んだ机。
薄暗い部屋の中には、高校生くらいの男女が4人いる。
それぞれの手には弓や槍、剣、杖らしきものがあった。
杖の少女は、三角形の大きな帽子なんかも身につけている。
『やほやほー。今からわんちゃん退治してきまーす』
杖の少女がこちらに視線を向けて、ピースサインを作りながら無邪気に笑っていた。
わんちゃんを退治。
このタイミングで見せると言うことは、これもさっきのスライムのような本物のモンスターと戦う動画なのだろう。
『って言ってるそばから出たぞ』
そんな事を思っていると、巨大な剣を持った男が、鋭い視線を教室の中央に向けた。
カメラがズームに切り替わり、鋭い牙を持つ3つ首の獣が映し出される。
コイツもゲームで見たことがある。
――ケルベロスだ。
『ねぇねぇ。……あの子、可愛くなくない?』
何を期待していたのか、杖の子が見るからにションボリとしていた。
『いやいや、モンスターが可愛いわけないだろ。うっし、やりますか』
巨大な剣を肩に担いだ少年が、グルルルル、と低いうなり声を漏らすケルベロス目掛けて走り出す。
『先に目を潰すわ。もしあなたに当たったら避けてちょうだい』
背後から聞こえてきた弓少女の言葉に、剣の少年が慌てて足を止めた。
『いやまて、絶対オレに当てんなよ!? マジでやめろよ!?』
『大丈夫。視聴者も望んでいるわよ』
『なにがだよ! 視聴者"も”ってなんだよ!』
敵意むき出しの化物を前にした雰囲気は、みじんも感じない。
どことなく、全員が楽しんでいるように見えた。
『おまえら、遊んでないで殺るぞ』
『はいはーい。サクッと可愛くがんばるよー』
剣士と槍使いが前に出て、ケルベロスの動きを制限していく。
背後からは弓少女が、目や足を中心に打ち込み、敵の動きを弱らせていった。
『詠唱完了したよー。みんな避けてー』
少女が持つ杖の先から、紫色の炎が吹き上がる。
それは橘さんが見せてくれた炎に、良く似ていた。
紫の炎が膨れ上がり、少女の体よりも大きな火の玉が作られる。
『死んじゃえーーー!』
物騒な叫び声と共に玉が動き出した。
仲間たちが一斉に距離を取る。
玉に触れたケルベロスが、この世の物とは思えないほどの火柱に包まれ、激しく燃え上がった。
誰しもが固唾を飲んで見守る中で、炎がゆっくりと治まっていく。
そこには、焦げ跡1つない綺麗な床だけが残されていた。
『わーい、勝ったー!』
少女が楽しげに飛び跳ねている。
『肩の矢が痛い! 抜いて! マジ抜いて! ヒールして! 回復して!』
『悪かったわ。わざとだから気にしないで』
『わざと!??? 今わざとって言ったよな!?』
『……じゃれんな、めんどくせぇ。ほらよ』
『ではではー。次回も見に来てねー』
手のひらから青白い光を放つ少年を背景に、少女が楽しげに手を振る。
どうやら動画はここまでらしい。