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<28>紳士の会合

 入学式から1ヶ月が経過したその日。


 1年2組の担任を勤める宇堂 大介(うどう だいすけ)は、普段と変わらぬ装いで、シャンデリアの光に照らされていた。


 余裕すら感じる表情で宇堂が見つめるさきには、理事長である橘や防衛省の幹部、陸上自衛隊の責任者など、そうそうたるメンバーがソファーに腰掛けている。


「宇堂中尉、……いや、失礼。宇堂先生。すぐに始められるかね?」


「無論です。まずはお手元に資料を」


 秘書らしき者たちによって、ひとりひとりに束の資料が配られていく。


 パラパラと紙をめくる音が部屋を支配し、誰しもが真剣な表示を浮かべていた。


「……ほぅ、悪くはないな」


「うむ。申し分ない」


 ところどころで感嘆の声があがり、髭の奥に隠れた口元が小さくほころぶ。


 宇堂は壁際に控えながら瞳だけで彼らを見渡し、ひときわ強く表情を引き締めた。


「教育は順調。そうだな?」


 自衛隊の幹部に視線を向けられて、宇堂はハッキリと首を縦に振る。


「物足りない部分もありますが、当初の予定よりも進んでいる者が多く見られます」


「その要因に心当たりは?」


「入学祝いと称して行ったテストの最中に盾を“発現”した者。その者がクラスの実力を引き上げ、良い影響を与えております」


「ほぉ……」


 質問をした男がもう1度手元の資料に視線を落とし、探るような視線を宇堂に向けた。


「成川 竜治。初日に複数の技能を会得し、その後も優秀な成績……」


 ふと、肩の力がぬけ、男の視線が橘理事長に向けられる。


「橘理事が連れてきた成人ですか。さすがは“鷹の目”、スカウトまで一流でしたか」


 ニヤリとした不気味な笑みが、男の顔に張り付いた。


 理事長はただ静かに微笑みを浮かべて、沈黙を守り続ける。


 そんな理事長の隣に座った防衛省の幹部が、紙を机に放り出して宇堂を見据えた。


「上が優秀なのは理解した。だが、下とは大きな開きがあるようだな? 女子生徒1名が未だに“力”を感知出来ず、とあるが、どういうことかね?」


「そちらに関しましては、私も力不足を認識しております。ただ、お言葉ではございますが、彼女たちは入学してまだ1ヶ月。他のクラスと比較しても、彼女だけが遅れている訳ではございません」


「ほぉ? つまりは他が早すぎるだけ。そう言いたいのだな?」


 鋭く目を細めた男が側仕えから新たな資料を受け取り、荒々しく目を通す。


 パラパラと流しみた男が、押し付けるように資料を戻して、宇堂に鋭い視線を向けた。


「他のクラスは7割が感知出来ていない。確かにキサマの失態ではないようだ。今日のところは不問としよう」


「ありがとうございます」


 軽く頭を下げた宇堂を見据えて、男が面白くなさげに鼻をならす。


 出された紅茶を飲み干して、男はもう一度宇堂を睨みつけた。


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