<27>新生活2日目6
額から汗が噴き出し、金属の板がゆっくりと縮んでいく。
「そうだ。それでいい……。その辺が限界だな?」
「……そう、みたいですね」
名刺くらいのサイズにまで縮んだ板を眺めて、宇堂先生が口元をほころばせる。
回されていた腕が離れ、大きな手のひらが頭をポンポンとなでた。
「良くやった。俺の見込み以上だ」
「ぇ……?」
理解が追い付かないが、どうやら誉められたらしい。
感じていた危機感が、いつの間にか消えていた。
先生が金属板の表面をコツンと叩き、顔をひきつらせているクラスメイトたちに視線を向ける。
「いまのが“発現”と呼ばれる技術だ。白い力で物を呼び出す、言うなれば四次元ポケ――いや、違うな、アイテムボックスの方が伝わるか?」
珍しくも小さく首を傾げた宇堂先生が、自信なさげに問いかけていた。
(大丈夫です。どちらでも伝わると思います)
クラスメイトたちには聞こえないように小さくつぶやくと、先生がオホンと姿勢を正す。
「まぁいい。好きに理解しろ。大きさや形、硬さなどは、その物質に込める力の量により変化する。これの詳しい説明は後日だ。今日は先にも話した通り、力の付与を行う」
もう1度、コツンと金属板の表面を叩き、先生が振り向く。
「成川、目を開いたまま、コイツに意識を集中させろ。“発現”や“収縮”が出来たお前なら、出来るはずだ」
「……わかりました」
不思議なことの連続で、精神が予想以上に疲労している。
徹夜で仕事をしていた時よりも、心身共に疲れている気がする。
だが、それと同時に、心の奥底からワクワクしていた。
「盾を力の塊と認識しろ。そこにある力を体に戻し、そこからナイフに流し込め」
「ちからのかたまり……」
何となくではあるが、意味はわかる。
手榴弾のように感じていた存在が、小さくなるにつれてその存在感が薄らいでいた。
その際に、不思議な物が体の中に流れ込んでいる奇妙な感覚があった。
「ちからを、もどす……」
あの時の感覚を思い出しながら、左手を握る。
金属の板が光に包まれ、上の方からゆっくりと溶け始めた。
左手からあの時と同じ奇妙な感覚が流れ込み、腹のあたりに不思議な物が貯まっていく。
これが先生の言う“力”なのだろう。
「これを、ナイフに……」
ポケットからカバーに包まれたナイフを取り出して、右手に握る。
腹に溜まった物を細い糸のように引っ張り上げて、右手に流し込んでいく。
指先からゆっくりと流れ出し、ナイフの中に入っていく感覚があった。
「なっ……!?」
「ほぉ……」
背後から迷彩服男の息をのむような声が聞こえてくる。
宇堂先生からも感嘆の声が漏れ聞こえた。
「そこまでで良い。力を抜け」
「わかりました……」
引っ張り上げる作業をやめて、力を抜く。
不意に体がバランスを失い、地面に手を付いた。
心臓が強く脈打ち、額から大粒の汗が噴き出している。
体が大きく揺れていて、立ち上がることさえ出来そうもない。
「体調が戻るまで休息を与える。ゆっくり休んでいろ」
「ありがとう、ございます」
そのまま倒れるように腰を下ろして、荒く息をしながら空を見上げる。
何をした訳でもないのに、全身がクタクタだった。