<26>新生活2日目5
「入学祝で出した盾。あれをもう一度“発現”出来るか?」
「いつの間にか消えていたヤツを、ですか?」
「あぁ、あの盾も身体能力の向上と同じ類いの物だ。上手く引き出せば、お前もあの力を扱えるようになる」
「俺が……」
あの魔法のような力を?
非日常の力を?
無意識のうちにナイフを握り締めて、ゴクリと唾を飲んでいた。
自然とわき上がるワクワクが、止められない。
「悪くない面構えだな。目を閉じて、集中力を保て。あの時の姿を思い出せば、自然と目の前に現れる」
「……わかりました」
宇堂先生の言葉に従い、俺は足を肩幅に開いて目を閉じる。
両手を前に突き出して、脳内にあの化物の姿を思い浮かべた。
「盾……、盾……、盾……、盾……」
目の前に迫る巨体に、鋭い牙。
あのとき感じていたのは、後ろの少女を守るという思いだけだった。
ただそれだけを漠然と願い続けていた。
吹き飛ばされた後の砂利道相手にはクッションにすらならなかったが、あの化物の牙を防ぎ、俺の体だけでなく――
「もう良いぞ。目を開けて見ろ」
「っ……!!」
声をかけられて、そこではじめて気が付いた。
手の中になにかしらの重さを感じる。
うっすらと目を開くと、A4の紙のような薄い金属の板が、手の中に収まっていた。
あの時とは、形や大きさがまるで違う。
小さな小さな手のひらサイズ。
「これは……」
金属の板に持ち手をつけただけの代物で、ひどく不格好に見えた。
とてもじゃないが、盾には見えない。
失敗したか……? と言うか、これはなんだ……?
「集中力を保ち続けろ。気を抜けば爆発するぞ」
「なっ……!!」
驚きに目を開くと、先生が表情を引き締めて、金属の板を指先で挟み込んだ。
視界の端に映っていたクラスメイトたちが、お互いに顔を見合わせながら少しずつ離れていく。
俺の不安定な感情に呼応するかのように、金属の板が大きくゆがみ始めた。
「心を落ち着けろ。もう少し小さく出来るか?」
「ちいさく……?」
淡く点滅する金属の板をじっと見つめて、ふぅー……、と息を吐く。
金属の板が爆発するとは、どういうことか。
理屈や常識など今更だが、状況が一向に理解出来ない。
ただそれでも、第六感のような物が、俺の脳に強い警鐘を鳴らしていた。
手榴弾でも持たされているかのような冷たい感情が、体の芯からせり上がってくる。
「ゆっくりでいい。もし何かあれば、俺がフォローする」
「は、はい。了解です」
宇堂先生の腕が俺の肩に回される。
その手から伝わる暖かさが、頼もしく感じられた。
「もう1度問おう。コイツを小さく出来るか?」
「やってみます」
もう1度、ゆっくりと息を吐ぎだして、金属の板をじっと見つめる。
次第に周囲が見えなくなり、心臓の音が大きく聞こえ始めた。