<25>新生活2日目4
「今見た通り、普通にナイフを当てても、当該生物――モンスターは切れん」
もう1度飛びかかってくるスライムを避けて、今度は右足で大きく蹴り上げる。
ペトン、ポテン、とスライムが地面を弾んでいく。
「ここからが本番だ。よく見ておけ」
スライムに対して半身になり、左手を体の後ろに引いた先生が、切っ先を水平に構えた。
指先から白い湯気のような物が溢れ出し、ナイフの周囲を包み込んでいく。
「オーラ、魔力、気、超能力、生体エネルギー。おまえたちの感覚で好きに呼べ。脳科学の権威がたどり着いた、人類の可能性だ」
みたび飛び込んできたスライムを先ほどまでと同じように避けて、下段から白く染まったナイフを切り上げる。
切っ先が中心をとらえ、薄い紙を裁断するかのようにスパリと切り裂いた。
2つに裂けたゼリー状の体が、ベチャリ、と地面に落ちる。
地面に溶け込むかのように、消えていった。
「効力は今見た通りだ。この力は物だけでなく、自分にも付与できる」
先ほどよりも大きな湯気が立ち上り、先生の体にまとわりつく。
先生が軽く膝を曲げたかと思えば、一瞬の後に、その体が猛スピードで舞い上がっていた。
見上げるほどの高さにまで到達した体が、俺たちの前に落ちてくる。
「「「…………」」」
俺の見間違いでなければ、先生の体は校舎よりも高く飛び上がっていたように思う。
少なくとも人類の動きじゃない。
「訓練を積めば、このような事も可能になる」
ズレた眼鏡を整えて、先生が白い力を引っ込めた。
「この力は特別な物ではない。得手不得手はあるが、このクラスの者であれば全員が出来るようになる」
「「「…………」」」
呆気にとられる俺たちを見渡して、先生が小さく肩を揺らす。
「榎並、お前はもう出来るな?」
「ええ」
ハッと振り返った先に見えたのは、強い存在感を示す榎並さんの姿。
白い湯気などをまとっている訳ではないが、先ほどまでの先生と同じような気配が漂っていた。
「俺は見せるために色を付けたが、本来は無色透明の物だ。これが出来たものから伍長と組み手を行う。榎並は次に進め」
「わかったわ」
1度周囲を見渡した榎並さんが、体育座りをするクラスメイト4人の頭上を飛び越えて、グラウンドに降り立った。
飛び越えられたイケメンたちが、幽霊でも見たかのような表情を浮かべている。
「私と殺し合うのは、アナタかしら? アナタは死ぬ役目なのだけどそれでいいわね?」
「あははー、美少女相手でもそれはイヤかな。お手柔らかに頼むよ」
「なら、精一杯避けなさい」
物騒な言葉と共に、榎並さんがグラウンドの中央へと歩いていく。
――パチン!
突然、手のひらを叩く音が聞こえきた。
振り向いた先には、表情を引き締めた宇堂先生の姿がある。
「成川、前に出ろ」
「……はい」
現状把握も出来ないまま宇堂先生の隣まで進み出る。
クラスメイトの注目を浴びながら、俺は1本のナイフを受け取った。