<24>新生活2日目3
(将吾、今更ではあるが、あれって本物だと思うか? いや、それよりもあれはなんだと思う?)
(わっかんねぇ。でもまぁ、昨日のティラノよりマシじゃね? 動画のケルベロスは本物らしいし、ティラノは本物に見えたっぽい。だったら、スライムも本物じゃね?)
(いや、まぁ、そうなんだが……。スライムって、遺伝子組み替えとか、培養とか、そんなレベルじゃ――(むしろさ))
(あれが本物ならワクワクしねぇ? アイツを倒すとか、完全にゲームの主人公だよな)
右手をグッと握り締めて、将吾が口元に小さな笑みを浮かべている。
俺と小声で話しながらも、将吾は檻に入れられたスライムだけをまっすぐに見つめていた。
彼の横顔が、震えるほど輝いているように見える。
(ワクワクか……)
将吾の言葉を小さく噛み締めて、前を向く。
不思議な感情を心の中にゴクリと飲み込む。
思えば、社畜をやめた新しい人生だ。
モンスターと戦闘するくらいぶっ飛んでた方が、確かに面白い。
(それもそうだな)
(だろ?)
将吾が、輝いた瞳でニヤリと笑う。
知らぬ間に握りしめていた右手をもう一度強く握って、前を向く。
クラスメイトたちのささやきも、いつの間にか静まっていた。
「ほぅ。悪くない表情だ」
静かに笑った宇堂先生が、俺たちに背を向けてゆっくりと歩き始める。
檻の前で立ち止まり、天井部分に手を乗せた。
「先にも言った通り、コイツは5等級の雑魚だ。だが、最低限の知識は必要になる」
眼鏡を中指で押し上げて、宇堂先生が教員らしい表情で俺たちを見つめている。
檻の中からは、ガチャン、ガチャンと、スライムが体当たりをする音が聞こえていた。
雑魚だとは言うものの、その姿はひどく好戦的に見える。
「伍長、鍵を」
「はっ! こちらです!」
キビキビと動いた男性から鍵を受け取り、先生が鍵を穴へと差し込む。
キー……、パタン、と檻が左右に倒れ、スライムが勢い良く飛び出した。
「え……?」
「大きく……!!」
何の前触れもなくスライムが膨れ上がり、バレーボールほどになった体が、宇堂先生目掛けて飛んでいく。
「まずは悪い例だ」
俺たちに声をかけながら、宇堂先生が飛び込んでくるスライムを避ける。
すれ違いざまにナイフを切り上げた。
――ムギュ。
柔らかい物が潰れるような音がもれ、スライムが青空へと舞い上がる。
ペトン、ポヨン、と地面を弾み、起き上がったスライムの細い目が、先生に向けられた。