<22>新生活2日目
合計18時間ほどゴロゴロと自由な時間を過ごした翌日のこと。
「あん? なんだよオッサン、今日もスーツで行くのか?」
「あー、まぁな。なんかもう、スーツにサングラスが、俺、って感じになってると思わないか?」
「いやまぁ、オッサンがそれでいいなら良いんだけどさ」
俺はスーツとサングラスに身を包み、将吾と共にグラウンドへ向かった。
綺麗な白いラインが引かれた赤土の上には、昨日と同じように、美少女やイケメンたちの姿がある。
「あっ、スーグラさんだ! おっはよー!」
「うぃっす! 今日もスーツが決まってるっすね!」
昨日とは打って変わって、クラスメイトたちが楽しげに話しかけてくれる。
その姿が素直に嬉しかった。
「スーグラさん、スーグラさん! 昨日の個人ランキング見ました?」
「個人ランキング?」
「あっ、見てないんですね。動画の下の方に投票出来る場所があるんです。昨日はスーグラさんが1位でしたよ」
気が付かなかったが、そういう物もあったのか。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
「ぃ、ぃぇ……」
俺が優しく微笑むと、少女はなぜか瞳に怯えを浮かべて後ずさった。
その視線は、俺の背後に向けられている。
周囲の話し声が、波を引くように消えていった。
振り向いた先に見えたのは、担任にデモンストレーションを仕掛けたあの少女。
「あー……、これはどうも」
鋭い瞳で俺を睨みながら、ゆっくりとこちらに近付いていた。
体ごと振り向いて、彼女を正面に見据える。
「榎並さん、だったかな? 俺になにか?」
「えぇ、あなたに言いたいことがあって」
胸の前で腕を組んだ彼女が、左足に体重をかけて立ち止まった。
身長は俺よりも少し低い程度。
それだと言うのに、圧倒されるようなプレッシャーを感じる。
彼女が指先を小さく動かしただけで、思わず視線で追いかけてしまう。
「あなたのような人がいると、迷惑なの。ずっと今のままなら、その頭を撃ち抜くわ」
物騒な言葉と共に、彼女が腕を組み替えた。
俺を見据える視線が、より一層の鋭さを増していく。
一瞬見えた手の中に宇堂先生を襲った時の銃はない。
油断は出来ないが、先の言葉通りなら、今すぐどうこうするつもりはないのだろう。
「それは申し訳なかったね。忠告に感謝して、精一杯の努力をさせてもらうよ」
背中を伝う冷や汗を笑顔で覆い隠して、出来るだけの優しい声音で微笑んでみる。
真っ直ぐに見上げる彼女の淡い瞳には、冷たい色の怒りがにじんでいるように見えた。