<21>テストのあとで6
画面から視線を外して将吾の瞳を流し見る。
「他のクラスを見るときは、ここを指で押せばいいのか?」
「ん? おうよ。ってオッサン、動画再生したことねーの?」
「……知識だけはある」
残業のせいで動画を見る時間なんてなかったからな。
「オッサン的にはきれい系が多い方が好みだよな?」
「ん? いや、俺はどっちで――「こっちだせ!」」
将吾が食い気味に画面に触れた。
映し出されたのは、入学式の案内をしてくれた美人教師と、1組の生徒たち。
こちらは教室で行ったらしく、ふたまわりほど小さな化物が、机や椅子を踏みつぶしていた。
『くっ、くるなぁああああああああああ!!』
『いや――――――!!!!!!』
真っ先に狙われたイケメンが頭から飲み込まれた。
天井を見上げた化物の口から、骨を砕く音が漏れている。
クラス全体に唖然とした恐怖が満ちていた。
『ひぅっ……』
『やだよ……、#梨花__りか__#を返してよ……。たったひとりのともだちなの……』
瞳に絶望を宿したまま、ひとり、またひとりと、化物に食われていく。
「これは、ひどいな……」
見栄えが、映像が、演出が……。
正直、目をそらしてしまいたくなる。
『全員赤点ね』
1組の動画は最後まで見せ場らしいものもなく、ずっと目をそらしたくなる光景が広がっていた。
全員が食われてテストが終わり、担任が数十個のビー玉を投げる。
その中からイケメンや美少女たちが出てきたものの、誰しもが恐怖や絶望、涙でぐしゃぐしゃだった。
将吾に負けず劣らずのイケメンたちが、今は見る影もない。
(これはちょっと……)
(悲惨)
(ホラーだけど、なんかあんまり……)
流れるコメントも数が少なく、哀れむような物が多かった。
命があったのはなりよりだが、『稼げる冒険者になりたい』『有名人になりたい』と夢を抱く彼らには、致命傷とまでは行かなくても、重たい足枷になるだろう。
「俺らがこうならなかったのは、的確な指示をしたオッサンのおかげだな」
「いや、俺を助けた将吾のおかげだろ?」
今見た物を頭から追い出して、将吾と顔を見合わせる。
ふー……、と大きく息を吐き出して、ビールの缶をあおった。
彼らもまだ高校生。
足枷をはずすチャンスは、いくらでもあるだらう。
(すげー、逃げ切った)
(可愛い子をかばうとか、かっこよずぎだろ!)
(俺、スーツとサングラス買ってくる)
俺たちのクラスは彼らよりも、ほんの少しだけ前に進めている。
向けられた賞賛の声が、今は素直に嬉しかった。