<18>テストのあとで3
この学校は、誰しもが小さな2人部屋からはじまる。
グレードがFからSまであり、1ヶ月の研修を終えて昇級すると、設備が充実していくらしい。
ここにはテレビやパソコンはないが、家賃は月1万円で、学食価格の飯が付いてくる。
「オッサンならすぐに昇級だろうけど、それまでよろしくな」
「あぁ、こちらこそ」
差し出された手を握り返して、微笑み合った。
「オッサンは下のベッドがいいよな? 俺、上行くわぁ」
「あぁ、悪いな」
「いいさ。俺、上の方が好きだしな」
ペコンと跳ね起きたイケメンが、備え付けのはしごを登って上のベッドに飛び込んでいく。
足腰が不安だったから、階段の回避は素直にありがたい。
「いやー、どんなやつと相部屋なのかと思ったけど、オッサンとなら安心だな」
「それはこちらのセリフかな」
上から聞こえる声に、心のそこから同意しておいた。
寝られる場所があり、空調があり、誰かが作った暖かいご飯を食べることが出来る。
心配なのは人間関係だけだが、この分なら大丈夫そうだ。
少なくとも、1人暮らしのアパートより100倍良い。
「相場 将吾。将吾って呼んでいいぜ」
「成川 竜治」
上のベッドから顔を出すイケメン――将吾に向けて笑ってせる。
彼の視線が再びゲームに戻ったのを見届けて、俺も自分のベッドへと潜り込んだ。
目の前にあるベッドの天井を見上げて、ほっと息を吐く。
聞こえてくるのは空調の音と、自分の静かな呼吸音。
普段なら仕事に追われながら上司に怒られている時間帯だと言う認識が、胸の奥底から湧き上がってくる。
「最高だな」
今日までの苦労が、全身から染み出しているような気がした。
前の職場の同僚たちは、きっと今日も、馬車馬のように走り回っているのだろう。
15時帰宅を味わった今となっては、2度とあの空間に戻りたいとは思わない。
「1日でも長く、ここで頑張ろう」
仕事に追われるくらいなら、化物に追われる方が100倍マシだと心底思う。
ふー……、と大きく息を吐き出して、ゴロンと寝返りをうった。
視界の先に見えるのは、鞄から飛び出した可愛らしいクッキーの袋。
「お礼、か……。将吾、ちょっと食堂でも見てくるよ」
「ん? うぃうぃー。おばちゃんたちきれい系だけど子持ちだからナンパ無理だったぞ」
「言ってろ」
将吾の軽口を流して、俺はベッドから這い出した。
初日と言うこともあり、飯はまだ準備中だった。
だが、お菓子や軽食、飲み物の類は注文出来るらしい。
パッと見ただけでも、品揃えはコンビニレベルだ。
ポテチにたこわさ、浅漬けキュウリ、唐揚げ、フライドポテト、エビフライ、メンチカツ……。
適当に買い込んで部屋に戻り、畳の上におかれたテーブルに袋ごと放り出した。
「将吾、付き合ってくれるか?」
「お? どうしたよ?」
眠たげに顔をもたげて、将吾がベッドの外に顔を出す。
「ほれ」
袋から炭酸入りのジュース缶を1本引き抜いて、将吾めがけて投げてやった。