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〈13〉入学祝いのテスト2

 突然あんな化物が現れたんじゃ無理もないが、誰も意味のある行動は出来ていない。


 クラスメイトたちは、ただ本能に従ってうめいているだけだった。


 化物が再び動き出せば、大惨事は免れない。


「このまま逃げる……、なんて出来ないよな……」


 口の中で小さくつぶやいて、俺は大きく息を吸い込んだ。


 浮かびあがる逃げ道を深呼吸で押さえつけて、現状を鑑みる。


 いつ動き出すとも知れない化物に、動けそうにないクラスメイトたち。


「……ん?」


 周囲を見渡す俺の視界に、宇堂先生の姿が視界の端に映り込んだ。


 先生は仁王立ちになりながら、ステージの上から俺たちを眺めている。


 その隣では、不参加の榎並さんが、青白い表情で口元を抑えていた。


――瞬間、ある種の気付きが、俺の脳を駆け抜ける。


「不参加、か……」


 先生と榎並さん、不参加であろう2人が同じ場所にいる。


 つまりステージの上は、不参加でも良い場所なのだろう。


 理屈なんて考えても意味はない。

 相手は常識外の化物だ。


 だが、


「……化物が立ち入れないと仮定しても、あそこはダメだな」


 ステージには、あの担任がいる。


 化物に追われながら登ろうとして『ここはダメだ』と蹴落とされでもしたら、目も当てられない。


 だとすれば……、


「逃げるぞ! ここから!!」


 俺は、左右の通路を指さして、精一杯の声を張り上げた。


「ヤツの体なら出入り口は通れない! 体育館から脱出するぞ!」


 確証など何もない。

 自信などもっとない。


 外に逃げたところで、化物はビー玉に戻って追いかけてくるかも知れない。


 そんな考えを心の奥に覆い隠して、俺は胸を張った。


 子供たちの迷いを晴らして、走る手助けをするのが、年長者の役目だろ?


「助けられてばかりで悪いが、みんなを先導してもらえるか? 俺は全員を見届けてから行く」


「……おうよ! 任せとけ」


 先ほど助けてくれたイケメンが、親指を立てて白い歯を見せてくれた。


 両手を大きく広げて、彼は気負いのない笑みを見せる。


「よーし、逃げっぞ! ほら、立つんだよ! 食われるぞ!」


 周囲に発破をかけながら、金髪のイケメンが先陣を切って走り出してくれた。


「そっ、そうね! スーグラさんが言うのなら……! 由美(ゆみ)、立って! 逃げるよ!」


「ちょっとまって、ひとりにしないで」


 イケメンの動きが呼び水となり、それぞれが化物から距離を取り始め――


「ひゃぅっ……!!」


――化物の恐怖に足を止める。


「由美!!!?」


 いつの間に顔を下ろしていたのか。


 クラスメイトたちの進路を化物の瞳が塞いでいた。


 縦長の瞳が、涙ぐむ女子生徒をまっすぐに見詰める。


「いっ、いや……、いや!!」


 その状況を見詰めて、俺は腹にたまった空気を大きく吐き出した。


「さすがに大人しく行かせてはくれないか……」


 さぁ、地獄に行こうか。


 そんな言葉を脳内に描いて、湧き上がる恐怖に蓋をする。


 俺は、転がっていたパイプ椅子を拾い上げて、化物めがけて投げつけた。


 鱗に覆われた皮膚にぶつかり、椅子がガチャンと音を立てる。


「こっち向けよ。おまえの相手は俺だぜ?」


 長い尻尾が翻り、化物と視線が交じり合う。


「おらよ!」


 開いたままのパイプ椅子をもう一度やつの顔めがけて投げてやった。


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