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〈12〉入学祝いのテスト

 大きく裂けた口が天井を向き、俺の視界に影が差す。


――|HROROROROROホロロロロロロ


 見た目に反した高い鳴き声が、その口から漏れていた。


「っ……!!」


 不意に、下りて来た化物と目が合った。


 気が付けば、爬虫類のような縦長の瞳が目の前にある。


 ティラノサウルスのような、2メートルを超える化物の口が目の前にある。


 瞬きをする縦長の瞳孔が目の前にある。



 手足が震える。


 奥歯がぶつかる音がする。


 息苦しさに喉が詰まる。



 やばい……。



 化物の鼻が大きく広がる。


 吹き出した息が、頬を凪いでいく。



 巨大な口が迫る。


 口が開く。牙が見える。



 目の前に、ぬるりとした舌が見える。



 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。



「ぐっ……!!」



――不意に、右肩に強い衝撃を受けた。



 何かともつれ合いながら、自分の体が床の上を転がっていく。


 2回転、3回転と転がり、見えてきたのは、化物に食われるパイプ椅子。


 上半分が鋭い牙に食いちぎられる瞬間だった。



 見るも無惨な残骸が残されて、化物の口からはこの世の物とは思えない音がもれている。


 不意に化物の口が天井を向き、巨大な喉仏がゴクリと動いた。


 ヒヤリとした物が、俺の胃の中にも落ちていく。


「うわっ、あっぶねー。間一髪じゃん」


 体の下から声がした。


 俺の体の下に、金髪のイケメンが倒れている。


 恐らくは彼が、化物に食われそうになった俺を突き飛ばしてくれたのだろう。


 慌てて立ち上がり化物に視線を向けるも、ヤツは天井を見上げたまま、口をもごもごと動かしていた。


「申し訳ない。助かった……」


「問題ねーよ。クラスメイトだろ?」


 右手を差し出して支え上げると、イケメンが男らしい笑みを浮かべてくれる。


 耳にかかるくらいでそろえられた金髪をイケメンがさらりとかき上げた。


「オッサンがいないと、このテスト、合格出来そうにねーしな」


 真っ白い歯を見せながら、イケメンが化物を流し見る。


 彼の手が、小さく振るえていた。


 その姿はどう見ても、15歳くらいの少年のもの。


「……悪い。心配をかけた」


 半分くらいの歳のイケメンに助けられて励まされるなど、我ながらどうかしている。


 俺は大きく息を吸い込み、イケメンの手を引く。


 化物を刺激しないように、ゆっくりと距離をとる。


「ぁぁ、ぁぁぁ、っぁぁ」


「ひゅっ……………」


 周囲のクラスメイトたちは、化物の恐怖に怯えて、意味のない後ずさりを続けていた。


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