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〈10〉美少女と銃2

 今の短いやりとりだけでは説明出来ないほど、銃を持った美少女はひどく疲弊しているように見える。


「……、ころ、しなさい……」


 息も絶え絶えになりながら、彼女はゆっくりと目を閉じた。


 体から力が抜け、周囲の誰かが、ひぅっ……、と息を飲む。


 いつの間にか俺の服の裾を掴んでいたガイコツキーホルダーの少女が、腕にしがみついて目を伏せていた。


「悪いが俺は教師でな。生徒を殺す事は職務に反する」


 先生の手からナイフが滑り落ち、刺さることなく床を転がっていく。


 ねじられていた手が緩み、宇堂先生が軽いステップで美少女から距離を取った。


 先ほどまでの獰猛な笑みは消え、胸ポケットに仕舞ってあった眼鏡がかけられる。


 先生が離れた後も美少女は床に倒れたまま、苦しそうな表情を浮かべていた。


「………いずれ、殺して、やるわ」


「そうかい。楽しみにしているよ」


 美少女からは、絶え間ない明確な殺意を感じる。


 むろん、そんな殺意を向けられても、宇堂先生に動揺の色は見えなかった。


「もう一度問おう。俺はお前の担任で良いのか?」


 少女が向けられた視線を避けて顔を逸らす。


 悔しさをにじませながら、胸元の布地をぎゅっと握りしめていた。


「……。……敗者は、勝者に、したがうわ……」


 目元を揺らしながら、美少女が下唇を噛み締める。


 その瞳は、どこか悲しげに見えた。


「そうか……。ほかに俺の就任に異議のある者はいるか? 何人でも相手になろう」


 宇堂先生の視線がこちらを向く。


 誰かが、ひぅっ……、と息をのむ。


 立ち上がる者、手を上げる者。

 そんな無謀な者など、いるはずもない。


 圧倒される空気の中で、『大丈夫です』『よろしくお願いします』そんな小さな声が聞こえていた。


「こちらこそ、よろしく頼む。今見せた通り、担当の学科は実技だ」


 中指で眼鏡を押し上げて、宇堂先生が男らしい笑みを見せていた。


 倒れていた拳銃の少女が、ふらふらになりながらも立ち上がり、何故か俺たちの方に体を向ける。


榎並 京子(えなみ きょうこ)よ。突然騒がせて、悪かったわ……」


 先ほどまで宇堂先生を殺そうとしていた少女――榎並さんが、ゆっくりと頭を下げてくれた。


 艶のあるポニーテールが、大きく揺れる。


 気の強そうな雰囲気は残っているものの、先ほどまでの鋭さは感じない。 


 少なからず怯えた瞳を向けていた同級生たちも、心なしかホッとたような表情を見せていた。


 悪い子ではないのかも知れない。


 今の姿を見ていると、そんな思いすら浮かんでくる。


――パチン。


 不意に、手を叩く音が聞こえた。


「デモンストレーションは以上だ。今の動きを参考に、訓練に励むように」


 視線を向けた先では、宇堂先生が有無を言わさぬ様子で立っている。


 どうやら今回の行動は、榎並さんの独断や氾濫ではなく、あくまでも授業の一環。


 そう言う事にしたいのだろう。


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