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ワーキング レボリューション(失敗の意義)

掲載日:2018/05/30

 卯月朔日朝晴れの札幌、青葉一樹は冬のなごり雪路に雄々しく立ち、

高層ビルを見上げていた。

「今日からここが戦場だ!絶対出世してやる!」

周囲の目をちょこちょこっと気にしつつ胸中でそう自らの野心を叫び、

人知れず拳を固くかたく握った。

そう、一樹は新入社員なのだ、大福生命株式会社札幌支社の。

一見美味しそうな名前だが『大福』と書き『オオフク』と読む、決して甘くない

日本でも大手に数えられる本社を東京に持つ保険会社なのだ。

顧客の中では『ダイフク生命』と呼ばれ愛されてはいるのだが…。

 そうして一樹は、23階建ての自社ビル最上階、戦場オフィスに向かう為

エントランスのエレベーターへと歩を進めていた。「うわっ」思わず声が漏れた。

大福生命ビルは、自社以外の事業所も幾多と入居していたのでエレベーター前は

一樹と同期らしい溌剌はつらつとした若者、脂がのった3・40代、今日まで日本経済を

支えてきたであろう疲労感漂う定年間近かと思われる人達で溢れかえっていた。

そのゴミゴミした威圧感は瞬に一樹の心を曇り空にした。

「初日から失敗したらどうしよう…。話の分かる上司、先輩でありますように」

手にした真新しいビジネスバッグを胸に押し付け一樹はそう願った。しかし

そんな想いなどお構いなしに無機質な鉄の箱は一樹を23階まで送り届けるよう

エントランスへと迎えに来た。そうして否応なしにオフィスに着いた。

「おはようございまーす!」不安な気持ちを払拭するかの如く一樹は

本心に嘘をつき、極力明るくワンフロアーのオフィスへと出社した。

そこで目の当たりにした景色は一樹にとって冷や汗ものだった。

なにせ既に同期と思われる面々が十名…いや九名が、支社長の席と思われる

威風放つデスクを挟み並んでいた。

「おはよう青葉君だよね、そろそろ朝のミーティング始めるから

あそこの女性の横にお願いね」柔らかな口調で先輩らしき人に指示された。

「は、はい、わかりました」そう言うと一樹は同期女性の横に一礼して立った。

(迂闊だった)

全道の支社から新入社員全員集まっての入社式が出社後、別会場で行われる予定だったので、それまでの事はあまり気に留めていなかった。

社会人としての甘さを恥じた。そして時を同じくして出世への出遅れ感が

一樹を襲っていた。

 ミーティングでは羽賀という部長が進行役となり、その日の業務内容の確認、

新入社員・先輩社員の自己紹介がとり行われた。新入社員の自己紹介は順を回り

一樹の番になった。

「初めまして、青葉一樹です。学生時代はフィールドホッケー部の主将をして

おりました。そこで培った根性で頑張りますので宜しくお願いします」

前夜考えたテンプレートのような自己紹介をドキドキしながらした。

新入社員十人の自己紹介後、羽賀部長が一樹達の先輩方にあたる紹介を一人ずつ

丁寧かつ迅速に行ってくれた。

「では最後に支社長お願いします」その時まで以上にオフィス内の空気を

張りつめさせるかのような声で羽賀部長が言い放つ。威風を放つデスクには、

誰もいない…。

「ハイハイ、じゃ若者たちの門出に挨拶しちゃおうねぇ」

(軽い、軽すぎる)新入社員全員がそう思ったに違いない。一際驚いたのは

一樹だった。何せ、先ほど同期女性社員の横へと導いてくれた先輩らしき人物

こそが支社長だったのだ。

「いやぁ新人さん達、緊張するといけないからデスク離れていたよ」

そう言うと、屈託のない少年のような笑顔で新入社員に挟まれている

デスクの椅子前に向かい立ち、一樹達らは支社長の方へ体を向かわせた。

「まぁ時間も無いことだし、僕の名前と新入社員に対する持論を一つだけ話し

ておくよぅ」(どこまでも軽い、チャラい)

「いやぁ~やっぱり何年経っても新人さんが入社してくる日の朝礼は緊張するねぇ」緊張しているようには…誰一人見えなかった。

「ゴホンっ」司会の部長が一つ咳ばらいをする。

「あ~悪い、悪い、時間が無いって言ったの僕だったよねぇ~」

新入社員一同、和やかになった空気をそれぞれ笑った。

「じゃ気を取り直してっと、新入社員の皆さん入社おめでとう。

私の名前は山口公太郎と言います。よろしみ!」

「支社長っ(怒)」部長の顔が熟したトマトのように見る見るうちに赤くなった。

「え~最近の若者って、嬉しいとか会いたいとかの言葉の最後を『み』に変えて

感情表現するってネットニュースで見たんだよぅ」甘えた声でトマト部長へ

支社長は笑みを浮かべ反論し、少し間をおいて再び話し始めた。

「では私から新入社員の皆さんへお祝いの言葉として一つ持論を伝えます」

支社長は、今までの柔らかな目を捨て一転鋭い目つきとなった。

「失敗は出来るうちに大いにして下さい」

ポカンと呆気にとられる新入社員。支社長が続ける、

「ミスを恐れないで下さい。数年後、君たちは部下や後輩を持つことになる

でしょう。その部下・後輩がミスを犯した時、それに対して最善かつ素早く

対応できる上司としてのスキルを身につけるには、あなた達自身がミスをする。

それこそが不可欠なのです!」オフィスの中パチパチと社員拍手で包まれた。

「おっ忘れるところだった、私は皆さんの中から社長を目指して貰えたらと期待

しております」

「これは新入社員の皆さん達だけで無く、支社ナンバー2の羽賀部長含め、

ここにいる全社員に対してそう想っています」

羽賀部長は、熟れる前のトマトのような青い顔になっていた。

そして一樹のエレベーター前での不安も忽然と消えていた。

「あっちなみに僕も社長目指しているからねっ。じゃあ今日もみんな頑張ろう!」

その支社長の一声で営業開始時間9時ギリギリ前のミーティングは終わった。













読者各位 

 拙書お読み頂きありがとうございました。初投稿ゆえ読みづらい点など

有したかと思慮しておりますが、丁寧に作った作品です。読者の皆様のご指導

ご鞭撻お待ちしております。R15にした理由は、今後この作品の短編続編を

創作し、シリーズ化させた時のためです。読者の皆様、貴重なお時間拙書に

費やしていただきありがとうございました。

                         朝倉 ひろみ      

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