05 作戦会議
王国の偉い人に会いたい、と言われても、平凡な王国民の一人であるシスターエイは戸惑うことしかできなかった。
「急にそう聞かれましても……。
テュルパ大司教様に相談してみてはいかがでしょうか。」
大司教であれば、マコがこの教会を初めて訪れたときにお会いしていた。
お仕事のために国内中を巡っているため滅多にお会いできないが、顔見知りの中では飛びぬけて地位の高い方だ。
「うんうん。大司教様も良いわね。でも、いつ会えるかも分からないのよね。」
できれば他に国や軍の関係で地位の高い人にも会いたいわね。」
もっぱら貴族の治療を行っている診療所もあるが、ここは南門周辺の住民や市場関係者がよく利用する場所であり、王国で地位のある人物となると滅多に来ない。
「難しいですわね。」
「そうよね。
ちゃんと話を聞いて欲しいから、荒っぽいことはしたく無いんだけれど。
やっぱり、お城に突撃するしか選択肢は無いのかしら。」
シュッシュッと言いながら、マコは左右の拳を交互に突き出した。
「もう。なんでそんな選択肢があるんですかっ。
お城の門番さんに、それこそ門前払いされてしまいますわ。
一般的なお話になるのですけれど……。
時間はかかるのですが、褒賞をもらえるような素晴らしい成果を残せば、どなたか貴族の方に会うことはできると思います。」
「素晴らしい成果?」
「たとえば、マコ様は冒険者ギルドに登録なさっていますよね。ギルドのトップの方も貴族ですし、騎士団とも繋がりが強いですから、すごく難しいギルドのお仕事をこなしたりしたら、マコ様のご希望を聞いてくれたりするかもしれません。」
マコは腕を組んで不満そうだ。
「ギルドの仕事って、結局馬退治の仕事しかやってないのよね。ほかの依頼は、魔族の隠れ家探索とか、気が進まないものしか無くて。
でもまあ、ギルドにも話をしてみようかしら。あの馬、レベル7とは思えないぐらいタフだった気がするし、意外と評価されてるかも知れないわ。」
「そういえば、あの時はリナード様もご一緒でしたわね。
この前リナード様がいらっしゃった時の古書の解読なんていかがですか?ほら、聖人エス様が書き残したというあの本。マコ様がお持ちですよね?」
「ああ、あの本ね。
そういえばあれ、すっごく文字が汚いんだけど、頑張れば読めるかもしれないわ。」
「まあ!解読できるのですね!すごいですわ!暗号の類ですか?
やはりエルフの皆さまは博学でいらっしゃるから、こういう分野でも頼りになりますわ。」
「あっ。
ええ、ええ。そうね、だいぶ遠いところに住んでる人たちが使っている、その、暗号の一種みたいなもので書かれていたのよ。」
マコは何かを思い出したかのようにハッとしてから、苦笑いを浮かべた。マコのことを何か聞こうとすると、いつも言い淀んで、はぐらかされてしまう。特に、出身地や生い立ちのことなどはほとんど教えてくれない。
シスターエイにとってはいつものことなので気にならなかった。それより興味を引くのは古書の内容である。
「どんなことが書かれていそうですか?」
「そうねえ。
見覚えのある単語が結構あったのよね。たぶん、魔法のこととかが多く書いてあるの。
ただ、やっぱり原本を読んでみたいのよねえ。」
マコは大したことは無かったかのように平然としている。しかし、シスターエイにとって聖人エスの話というのは興味が尽きるものではない。
「聖人エス様は魔法にも造詣が深かったのですね。伝説のとおりです。
素敵ですわぁ~。
……こほん。
もし原本をお探しであれば、教会の書庫にあるかもしれませんわ。聖人の遺物は教会が所有することになったものが多いですから。」
「よーし。
ちょっと原本もあたってみて、翻訳し終わったら騎士団の詰め所に持ち込んでみるわ。
これをお土産に、偉い人と会えればいいんだけど。」
「ええ。戦争のためほとんどの方が留守にしていますけれど、騎士団員の方々は貴族でもありますから。王様の勅命を果たしたとなれば、きっと相談に乗ってくださると思います。」
ふと、シスターエイは思い出した。
自分でも言った通り、騎士団員にまでなれるのは貴族である。マコとの会話の中で顔は浮かんでいたが、人懐っこい雰囲気のせいで意識から外れていた。
「そういえば、リナード様ご自身だって貴族様ですわ。
マコ様はギルドの依頼でご一緒なさった縁もありますし、直接リナード様にお話なさってはいかがでしょう。」
「あー。
あの人は口が軽そうなのよね。」
「あら。」
決して口には出さないが、シスターエイは心の中で同意した。




