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魔王幹部少女の好き勝手  作者: もじゃね
マコと戦支度
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01 エンカウンター

更新できなくなってしまったこと、弁解の余地もございません。

申し訳ありませんでした。


更新できていない期間、この作品がいつまでも頭の隅に有って、未練になっておりました。

小説を未完にすることがこんなにも心残りになるとは想像だにしておりませんでした。

駆け足であってもせめて完結させたいと思っております。

今後も多忙で、定期的な更新は見込めないのですが、もしお付き合いいただけるのであれば、幸いに存じます。



 昼下がりの青空の下、長蛇の列が森から城塞に向かって伸びていた。

 先頭を進むのは槍を持った数人のドラゴニュートたち。

 エメラルド色の尾を弱弱しく振って歩きながら、ドラゴニュートの女王キティンは同族の近衛兵に話しかけた。

「これで、何往復目になるか……。」

「13往復です。」

「そうか……よく数えていたな。」

「光栄です。」

「もう数えていなくてもいいぞ。」


 ため息をついたキティンと近衛兵。その後ろについてきているのは、ドラゴニュートやリザードマンのほか、ゴブリンやら、コボルトとかいう2足歩行する犬っぽいのやら。彼らはある程度秩序を理解できる魔族たちだ。一通り指揮するようにと、一昨日、ネオから紹介された。

 今、彼らが懸命に運んでいるのは、蔦で作ったバッグや植物の茎か何かで編んだカゴ、樽のようなもの。その中身は果物や魚といった、山の幸、川の幸である。

 そう。

 いまはネオに命じられて、森、川、山、そこら一帯から彼らが食べられるものを集めていた。集める先は魔王がねぐらにしている城塞だ。

 3重にもなっている城壁を超えて、まもなく13回目のゴール。


 と、いうところで、キティンは城の扉の前にぽつりといる、白い服の人影に気づいた。

 確か、人間たちの中でも回復魔法をよく使う奴らが着ている服だ。


「人間、か?また性懲りもなくやってきたのか?

 おい、ほかの人間が周りにいないか警戒しろ。」


 何人かの近衛兵に命令した後、キティンは槍を両手に握り直し、城の方へ進む。

 金色の長髪の横から長めの耳が見えた。


「エルフか。」


 一息で串刺しにできるぐらいの距離に近づくつもりだったが、エルフも城の方へ歩いていく。

 侵入者にしては、あたりをうかがう様子もなく、足取りに迷いもない。


「もしや、あいつがマコ?」


 数日前の明け方、ここに現れた人間に対して、魔王ネオが高らかに宣言していたことをキティンは思い出した。

 マコという名のエルフがネオと愛し合っているとか、なんとか。


 無関係なエルフが訪れるような場所ではないし、手段はわからないがいつの間にか帰ってきていたのだろう。ならば、ラッキーだ。

 いま、ネオはドラゴンのガットに乗ってどこかに飛んで行っている。

 

 そのエルフを人質にしてネオの前に突き出せば、いくらネオでも隙が生まれるだろう。

 その不意を突けば父の敵討ちができるかもしれない。


 キティンがほくそ笑んでいると、エルフは城の扉の前で立ち止まった。

そして、迷いもなく扉を開けようと手を伸ばした。


(あいつ、ネオから何も聞いていないのか!?)

「おいっ!」

 キティンは咄嗟に叫んだ。

 エルフはピクリと反応したが、既にその右手は扉を押し開けようとしていた。


 そして、案の定、その手はそのまま扉にめり込んでいった。


「ひえっ」


 エルフの甲高い悲鳴が聞こえた。

 と、同時に扉全体がぬるりとせり出してきた。


(ちっ、骨すら残らんぞ。)

 残念だが、人質を失うことになった。


 扉に擬態しているのは、ネオが連れてきたカツェという食欲旺盛なスライムだ。

 このまま飲み込まれて終わり。


 そう思った。


「きったなーいっ!」


 エルフは叫びながら、スライムと同じ速さで後退し難を逃れていた。

 扉の模様がついた立方体、つまりカツェの全身が城から飛び出してしまっている。


 あの不意打ちから逃れるとはそれなりの手練れらしい。だが、右手首までスライムの体に飲まれたままだ。自由に動けるとは思えない。


 その時、エルフの右肩のあたりに青白い光の円が浮かび上がる。


(魔法陣!?)

 キティンが驚愕すると同時に、エルフは魔法の名らしき言葉を発した。

「ポーラーレイっ」


 エルフの右手から閃光が走ると同時に、ぱんっ、という破裂音が鳴った。

 スライムは立方体のまま動かない。

 何が起こったのか分からず、キティンはつい斧槍を構えた。


 すると、エルフは右腕をおもむろに振り上げた。当然、まだ右手はスライムに刺さっている。自分の背丈以上もある立方体のスライムを片手で持ち上げたのである。

 キティンが息を飲む。エルフは石畳に向けて右腕を振り下ろした。


 ガシャ、という硬いものが砕ける音がとともに、5、6個の塊に分かれて地面に転がるスライム。柔軟性を無くし、まるで落石のように割れた。


(……石化、いや、凍結させた!?あの大きさのスライムを一瞬で!?魔法陣が現れたということは、エルフの秘伝の魔法の一つか!

 あ、いや、まずカツェは生きているのか?)


 キティンが言葉を失っていると、エルフは足元のスライム塊の1つを蹴り砕いた。


「ゼラチナスキューブ?じめじめしたダンジョンとかにいるヤツよね。

 掃除してないからこんなのが住み着くんじゃないの?

 まったく。ネオに言ってやらないと。」


 砕いた欠片をさらに踏みつけながら、エルフが文句を垂れている。

 その口からネオの名前が出たことで、キティンは確信した。

(こいつがマコか……)


 スライムは魔族の中でも最も打たれ強いと言ってよい種族だ。なんせ斬っても叩いても平然としているのだから。

 魔法であれば効き目があるのは間違いないが、魔法をぶつければ即死するということでもない。そこらの木や地面の穴に潜んでいるような小さなサイズのスライムならともかく、カツェ程のサイズのスライムは1、2回火の玉や冷気の魔法を受けた程度ではビクともしない。

 特大サイズのスライムというのはそれだけで厄介なのである。

 そんなカツェが瞬く間に戦闘不能になった。


 キティンは斧槍を構えたまま逡巡した。


 魔術師としては相当強い。

 人質にできるような相手だろうか?


 その時、ぐりん、と首を回してエルフがこちらを向いた。

 争いなどなかったかのように、ただ不思議そうにこちらを伺う緑の瞳と目が合い、キティンは本能的な恐怖を感じた。


「あら?……あらあらあら!」


 なにかお宝でも発見したかのような声を上げるエルフ。

 そして、斧槍の先端を向けられているというのに、エルフはこちらにゆっくりと近づいてきた。

 敵意を感じるわけではない。むしろ、槍を突き出せばそのまま刺さってしまいそうな無防備さが更におそろしい。


(怖い。一度武器を降ろすべきか。

 だが、どうせ人質にするのならば!)


 魔術師に対してこの間合い。絶対にキティンが有利なはずである。

 武器を握る両手が震える。緊張が高まる。


「ぉゃめくださーぃ」


 ふと、上空から聞き覚えのある声が聞こえた。

 エルフの視線が上に流れる。


 高まり切ってしまった緊張と、急に現れたエルフの隙。

 相手の異常さを恐れながらも、絶好の機会をキティンの反射神経は逃すことができなかった。


 片足で大地を蹴る。

 重心を前に押し出す。

 翼をはためかせて周囲の空気を背後に押しのける。

 

 すべての動作が完璧に連動し、ドラゴニュート族にのみ可能な、静止状態からの高速の一閃が完成する。


 次の瞬間には、

 槍はエルフのわきの下をすり抜けていた。


 キティンの目はかろうじて捉えていた。

 槍を繰り出す寸前、エルフは前進し、距離を詰めて片足を前に出して半身になった。そして上半身をねじり、斧槍の先端を右手のひらで受け止めて無理やりに矛先を逸らしたのだ。そんなことをしたら槍が手のひらを貫通して串刺しになるはずだが、地面を突いたのかと思うほどの重い手ごたえであった。


 キティンの懐に踏み込んで来たエルフは既に体制を整え、いつでも拳を前に突き出せる態勢になっていた。

 

 エルフの腕力でパンチなどされても痛くも痒くもない、と思いたかったが、つい先ほどスライムの塊が砕かれた光景がフラッシュバックした。


(あれ?これは。

 私、死ぬのか?)


 ふわりと死の予感が舞い降りる。


 だが、飛んでくるのは拳どころでは無かった。

 体当たりのように全身で飛びついてきたのだ。


 反射的に槍を手放し腕を横に払ってみたが、既にエルフは懐に入っている。衝撃に備え腹筋に力を込めることしかできない。


 腹にエルフの肩が当たる感触がした。

 

 だが、強い衝撃を感じることは無かった。

 次の瞬間、浮遊感に襲われた。

 

「は?」


 気づけば、エルフの肩に担ぎ上げられていた。


「ゲットっ!」


 エルフが勝利の雄叫びかのように叫んだ。

 意味が分からない。


「おやめくださーい!」


 先ほどの声の発生源が上空から降りてきた。

 ドラゴンのガットだ。

 その背中に乗っているのは、あいつしか居ない。


「よくぞ戻ったな、マコよ。」


「はいはい、ただいま。」


 魔王ネオの言葉に、エルフはキティンを担いだまま答えた。


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