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浅葱  作者: 悲夏
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まどろむ

 静かな雨の音と、微かな煙草の匂い。部屋は安心に満ちている。

 静寂とはいえないが、だからこそ不安じゃない。緩やかな時間の流れが私を包む。

 私はソファに座って、ただ雨の日音を聞いている。

 あの人は私に気を遣ってか室内では煙草を吸わない。けれどベランダから匂いを持ち帰って、そして遠慮がちに距離を空けて私の横に座る。向かいのテーブルに置いた灰皿は未だに1度も使われず、綺麗なまま。

 いくら気にしないって言っても、黙って首を振って。それなら禁煙すれば良いのに。と言えば右の耳を触りながら「まぁ、おいおいね」って。

 彼女は結論を先延ばしにしたい時、少し都合が悪い時なんかは耳を触る癖がある。一緒に過ごすようになって気付いた。

 そうなると、余計に申し訳なさそうな顔をするから、いつも私の方から距離を詰めなきゃいけない。

 今日もそうだ。定型と化したやり取りを2人で繰り返す。退屈なそれさえ、嫌な気はしない。

 彼女に近付く。2人で買った安物のソファが僅かに音を立てる。そのまま倒れて、彼女の膝に頭を乗せる。

 煙草の匂いがする。

 彼女の匂いといえば、もうすっかりこの刷り込まれてしまっている。私にはなんていう名前の煙草かも分からないけど、安心して、目を閉じてしまう。

 彼女は私を拒まず、ただ黙っている。

 静かな雨の音。煙草の匂い。彼女の体温。この部屋には安心が満ちている。

 いつからこうだったのか。とか、これからどうなるのか。とか。そういう難しい思考が流れを止めていく。

 ただ、安心して、微睡んで、幸福であればあるだけ強く感じる不安もある。大事になればなる程に失うのが怖くなる。

「この幸せな毎日も、煙に消えちゃうのかな。」

 そう呟いても、彼女、アサギは何も言わなかった。

 ただ黙って、柔らかい手で私の頭を撫でて……。

 私はまた浅葱色の夢を見る。

 

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