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なんでこいつらはいつもタイミングが悪いのだろうか。

「これで合っているはずだ」僕は頼まれていた封蝋を、テーブルの上に置く。ソファーに座るティル、ガンサー、セーラは開いた口が塞がらないようだ。それもそうかもしれない。僕のやり方でやるなんて大口を叩いて、一人で、それも日の暮れる前に達成したんだから驚いているんだろう。まぁ強盗して奪い取ろうと思っていた奴らからすれば、どんな奇術を使った、なんて思われても仕方ないか。

「一体どんなトリックを使ったんだい?」案の定ガンサーが聞いてきた。

「店主とお話ししたらその場で作ってくれたよ」

「洗脳魔法が使えるなら先に言いなさいよ」面白くなさそうにティルが唇を噛む。

「いえ、彼には魔力なんてこれっぽっちもないわ」セーラは入り口へ振り向き、言葉をつなぐ。「現に、魔力反応が違えば警報がなるはずのドアから堂々と入ってきたじゃない」そういえばそうだと各々がつぶやく。そういえばあの入り口は警報がなるんだったか。すっかり忘れていた。

「本当にどうやったんだい?」

「まぁ前の仕事じゃ、人を説得することが多かったからね」

「どうやったかなんて関係ないわ。ともかく、この封蝋があればパーティに潜り込める。ティル、早速招待状を三枚お願い」そう言うと封蝋をひったくってティルは地下に消える。

「二枚?僕はお留守番か?」てっきり僕の有能さはこれで示せたと思ったが、そうでもなかったのだろうか。

「自分が残るんだよ。ほら、この耳は隠せないし」ガンサーはぴくぴくと動かす耳を指差す。

「ティルとあなたで出向くことになるわ。私は顔が知られすぎているし、とてもコソコソできる立場じゃないわ。それに私は正式な招待状を貰ってるもの」ほら、とポケットから招待状を出す。なるほど、それが偽装元か。「ガンサー、ブリーフィング用のあれをお願い」はいはいなんて言いながらガンサーも地下に何かを取りに行ったようだ。


僕とセーラの間に気まずい沈黙が訪れる。こうして大人しく二人きりになるのは牢屋以来だろうか。そういえばセーラには聞いておかなくちゃいけないことがある。

「セーラ」

「何?」

「牢屋でのことだ、僕に食事を持ってきた時。あの紙は君が書いたのか?」そう、あの暗号の書かれた紙だ。あのコードブックを解くととある文字列が浮かび上がってくる。それをこっちの言葉で発音すればつまりは日本語の発音になるんだが、こんなものが書けるのはやはり神様ぐらいなものだろう。いや、あの蛇が日本語で話せるかも怪しいものだ。

「どの紙よ?」

「あのパンに入っていた紙だ」

「あのパンには鍵しか入れてないわよ?」セーラも知らないか……つまるところは……

「持ってきたよー」そう言うとガンサーが地下から元気よく羊皮紙と駒を持って飛び出してきた。間の悪いやつめ。

「じゃあ、ブリーフィングを始めましょうか」

「うん、じゃあハヅキ、簡単に説明するね」

「ああ、頼む」

「まずはセーラが会場に先入りする。その少し後に君とティルが同じように正門から招待状を使って堂々と入る。その後僕が敷地近くで爆発騒ぎを起こすからその間に君たちが宅内を探る。大雑把に言うとこんな感じかな」まぁ大雑把だが理にかなってはいる。ガンサーが地図を広げると正門とは反対側にある裏口を指差す。「爆発があるまでここで待機してて、そのあとはこの部屋を目指してくれ」

「ここに書類が?」

「うん、内通者からの報告でそれはわかってる」頷くガンサー「で、僕の予想だと爆発の後から半刻以内にこのドアを通れば特に問題なくパーティ会場に忍び込めると思うよ」

「忍び込んだ後はパーティを楽しむわけか」

「そういうこと」

「悪くないな」

「でしょ?僕が立案者なんだ」ガンサー、戦闘員と思っていたが意外と頭が切れる。

「じゃ、そういうことだから」そういってセーラに手渡されたのはポーチに入った金貨五枚。

「これは?」

「これだけあれば、いい服買えるでしょ」

「ああ、パーティだもんな」

「それなりの格好をしていないと門前払いになるからね。ガンサー、服選びを手伝ってあげなさい」

「はいはーい。じゃあ行こうか?」ガンサーは嬉しそうだ。僕は男とのショッピングなんてそんなに好きじゃないが。


ガンサーに連れられて向かったのは紳士服の専門店それも老舗とも言える場所だった。その店の奥の部屋。小綺麗なプライベートルーム。そこで僕は紳士服をきた女の人、髪をボーイッシュにカットした男装の麗人に体のサイズを測って貰っていた。もちろんガンサーに見られながら。

「いい店でしょ?」

「だな、気品がある」実際のところ自分が気後れしてしまう程度には品のある場所だった。

「ここの店長と僕の親父は知り合いでね。僕みたいな獣人族でも服を買えるから重宝してるんだよ」

「普通の店じゃ買えないのか?」

「亜人とは差別対象だからね、どこの店でも門前払いさ」

「非常に嘆かわしいことでございます」ドアを音も立てずに入ってくるトリス人の老紳士はたくましい白髭が特徴的で、顔に微笑みを浮かべていた。「ガンサー様のお父様には行商人時代にお世話になりました」

「僕のお父さんは傭兵でね、それも行商人の護衛を専門にやってたんだ」

「ええ、お父様と盗賊との戦いを、自分の隣で見守っていたのが彼、ガンサー様にございます」

「世界で自分より強い奴を探すなんていって大陸中を旅してたんだ」だとしたら相当強かったんだろう。

「そのお父さんは今トリスに?」

「いや、自分のお父さんはその……」

「ガンサー様のお父様は死去なされました。この国で、公開処刑でした」

「……」ガンサーは俯いて感傷に浸るように黙り込んでしまった。

「悪いことを聞いたな」

「いや、気にしないで」

「……私たち商売人としては商売ができれば、皆平等にございます。この国が選民論を掲げて、差別をはびこらせているこの現状に私は悲しくございます」

「まぁそのうちこの国も良くなる」僕がそういうとガンサーが顔をあげる。

「それはどうしてです?」

「あんたや、ガンサーみたいな人がいるからさ」僕の採寸は終わったようで男装の麗人は部屋を出ていった。「いつ頃できる?」

「明日までにはできますとも」

「そうか、じゃあ行くか」そういうとガンサーは立ち上がる。お代を払おうと金貨の五枚入ったポーチを開いて数枚手に取る。

「金貨六枚と銀貨四枚にございます」……セーラの奴め、足りないじゃないか。僕はガンサーを微笑むように見つめてポーチの中身の金貨五枚を見せる。ガンサーは仕方ないとでも言いたげに金貨一枚と銀貨四枚を貸してくれた。


ガンサーに金は必ず返すと約束して帰った後、僕は地下墓地に帰った。地下墓地は相変わらずジメジメとしていて、人の住む場所とはとても思えなかった。自分の部屋で約束どうり、明日渡す予定の装備を畳んでいると、隣から物音が聞こえてくる。大方麻薬作りに明け暮れているのだろう。だが、気になったのはそれ以外にもブツブツと小声で聞こえてくることだ。それが扉の方から聞こえてくるものだから、一体どうしたものかと考えていた。いや、誰か扉の前にいるのはわかっているんだから、とりあえず開ければいいのか。警戒しながらゆっくりと扉を開けると。そこには目をつぶってブツブツと小声で独り言を喋る、半裸のシャツ姿の男の姿があった。金髪のウェーブのかかったミドルヘアーに整った顔立ち。そして、汗をかいたようなテカリ方は営みの後のようであった。

「誰だ」男はハッとしたようでこちらを見る。

「ああ、すみません向かいに住み始めたとお聞きしまして。いや、別になんて用事があるわけじゃないんですけどね。いや、挨拶をしておこうと思いまして。初めましてローズと申します。あまりおおっぴらに言えませんが男娼をしてます」よく喋る男だ。それに男娼なのは知っている。

「そうか、ありがとう。それだけなら帰ってくれ」

「ああ、お待ちください。いや、自分恥ずかしがり屋なんですけどね?でも第一印象は大事なんていうから、一応お恥ずかしながらプレゼントでもしようかと思いまして。いやぁ、この香水なんですけどね。はベらしている女の子に買ってもらったんですが、いやぁこれが自分には合わない匂いでして……」

「帰れ」そういってドアを閉める。

「香水は置いていきますね!もしよかったら後でお話ししましょう!」

「いらん!部屋に閉じこもってろ!」ドア越しでもかなりの音量で聞こえてくる。うるさい奴だ。これは隣人としてはハズレを引いたかな。ドアを閉めてしばらくするとまたコンコンとドアを叩く音がする。

「なんだ?」ドアを開けて怒鳴り気味にそういうと、そこにいたのはローブ姿の男だ。

「うるさいぞ、分量を間違えたらガスが漏れるんだから静かにしてくれ」

「あ、すみません」

「全く、これだからガキは」そうこぼすとその男は隣の部屋へと帰っていった。床にはピンク色の香水が置いてあって、そこに置いておくわけにもいかないのでとりあえず部屋に持ち帰った。明日は作戦の決行日だってのに変な隣人も持つと大変だ。とりあえずは床に寝転がって明日に備えよう。


さて、心地よい睡眠を邪魔したのはドアをノックする音だった。どうせローブの男の言っていた使いの者だろう。ドアを警戒もなしに開けるとそこには昨日の半裸男、もといローズが立っていた。

「やぁ、昨日はどうもすみませんでした。あ、香水はお気に召しましたか?」

「帰れ!」面倒臭い事この上ない。ドアを閉めるもしばらくするとノックする音が聞こえてくる。ドアを開けてまた怒鳴ろうとするとそこにいたローブ姿の男に口をつぐむ。またこのパターンか。

「約束の装備は?」

「あ、これです」

「うむ、確かに」そう言ってローブの男は装備を大事に抱えて帰って言った。なんでこいつらはいつもタイミングが悪いのだろうか。

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