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真っ暗な空間に佇むそれは神々しさを放っていた。

 僕は処刑される。一体どうしたらこう言うことになるのか、いやはや、全くわからない。このボロい牢屋の中で助けも求めても誰にも助けてはくれない。十時間以上の絶食にもかかわらず、セーラの残していった質素なパンとスープは食欲をそそらなかった。


「大丈夫か?お前」食事に手をつけない僕を兵士が見ると、心配そうに声をかけて来た

「ああ、大丈夫さ。あんまり食欲がないんだ」

「昨日から何も食べてないのに?」

「ああ」

「なら分けてくれよ。なんでか知らんが、見張りの順番が変わってしばらく飯にありつけないんだよ」

「僕の食事だ」そういってスプーンを手に取り、スープを味見する。兵士は残念そうにスープを見つめている。


 口の中に含んだ一滴のスープは野菜スープをベースにしたような味でほのかな苦味が確かにする。とゆうか、この苦味は睡眠薬だ、それも即効性のあるタイプ。あのセーラとか言う女は一体何がしたいんだ。


「なぁ、処刑が決まったみたいだよ」ため息をついて、兵士に話しかける。

「本当かよ?」以外そうな顔をした兵士は、まるで冗談でも聞いてるようだった。

「セーラって人が言ってたよ」

「なら本当なんだろうな」

「だから腹が減ってないんだ、このスープ飲んでいいぞ」

「いや、そしたらそれは、お前の最後の食事だろう。俺がもらっていいもんじゃねぇよ」

「僕の最後の話し相手にお礼をしたいのさ、頼むよ。もらってくれ」

「そ、そうか。それじゃ遠慮なく」そう言ってスープをもらう兵士は随分腹が減っていたのか、スープを一気に飲み干した。「ありがとうよ、美味しかったぜ」

「そうか、それは良かった」

「できればパン……パンの方も……」それだけ言うと、意識を失って見張りの兵士はいびきを立て始めた。


 スープにこんな仕掛けをしてあるぐらいだからパンにも何かあるんじゃないかと探っていたら案の定中に手紙とパンが入っていた。手紙からパンくずを払うととりあえずは読んで見る。が、書いてあるのは数字と記号のみ。僕がまだこの言語を完璧に身につけていないから、なんて言うレベルじゃなくてただの記号と数字が綴ってあった。


 で、一つわかったことがあって、要はこれはブックコードの鍵なんだろう。中世じゃよくスパイが聖書をブックコードに仕立てて、情報交換に使っていたそうだ。だがしかし知識では知っていても、これを解読することになるとは思ってなかった。


 いや、とりあえず鍵もあるんだし、脱出が先だろう。解読は後でできる。錆びた鍵を鍵穴に差し込むと回してもいないのに鍵がガチャリと開いた。

 

 とりあえず見張りの装備を借りれば、遠目にはバレないだろう。気配を探りながら牢屋から脱出を試みた。が、気配を探る必要もないぐらいに警備がザルだった。まず第一に囚人は僕だけのようだ。それに、あの見張り以外に地上への出入り口にしか、兵士がいなかった。その兵士も影から「囚人が死にそうだ!医者を呼べ!」なんて言ったら慌てたように、どこかへ走り出した。

 

 こうして牢屋から脱出を果たし、街の光景を目の当たりにした。街は幻想的な森の中に位置し、家や建物が大きな木やキノコをくりぬいて出来たものだった。日の光は幻想的にポツリポツリと木洩れ陽のように街をぼんやりと照らした。これはまるでファンタジー、というよりも実際にファンタジーなのだろう。僕にはまさかの光景だった。


「牢屋から出て何をしているの?」後ろから女の声がかかる。

「ん?」振り向くとセーラが腕を組んでこちらを値踏みするような目で見つめていた。反射的に逃げた。

「あっ! 待ちなさい!」全速力で駆け出す僕を追いかけるように彼女も駆け出す。

「誰が処刑されるなんて言われて待つんだ!」

「待ちなさい! 私は味方よ!」

「誰が信じるんだ!」

「だから間違いだって……言ってるでしょ!」そういう彼女は腕を振ると、その手から氷からできた鋭利なナイフを投げた。ナイフは僕の脇腹を擦り、地面に深く突き刺さる。

「余計信じれねぇよ!」住民は興味深そうにこちらを見つめる団体と魔法を見て逃げまとう集団に別れた。市街地の方へ逃げ込むと、集団がパニックになって逃げ惑う。

「もうっ!話ぐらい聞きなさいよ!」彼女はそういうともう一度魔法を放とうとして、構える。大通りに逃げ込むと衛兵がパトロールをしているようで、集団で歩いていた。

「衛兵!助けてくれ!頭のおかしい女が街中で魔法をぶっ放して僕を殺そうとしてくる!」衛兵が振り向いたのと同時にセーラの氷が足元を貫く。

「む! 秩序を乱す無法者め!」頑強な男が武器を構える。

「やっと退屈なパトロールから解放されたぜ!」他の衛兵たちも各々武器を構え応戦しようとする。

「どきなさい!非常事態なのです!」セーラは衛兵たちに囲まれると一喝する。

「ん?この人セーラ様じゃ……」

「そうです! どきなさい」

「あ、いや、失礼しました!」

「もう! いないじゃない!」

「わ、我々が探します!」

「いいわ! あなたたちはパトロールに戻ること、いいですね?」

「し、しかし」

「いいですね!」

「は、はい!」


 とまぁ、路地裏に隠れた僕は逃げおおせることができたようだ。いやはや、女ってのはやっぱり怒らせると怖いね。ともかくあそこから脱出できたんだし、住居を確保するか。そう言ってコソコソと僕はスラム街を探しに向かった。


 しばらく森のような街を歩くと、明らかに雰囲気の悪い場所に出た。多分、僕が兵士の格好をしているからか、人間だからか、歩く人々の目は好意的なものではなかった。敵対的な歩行者の一人を捕まえて話を聞いてみる。

「君!」

「国の犬がこんな場所に何の用だ?」

「聞きたいことがある」

「けっ! ここにいる誰かが答えるとでも?」見渡すと二、三人に監視されているようだ。全員武器を手に隠し持っている。

「ここら辺で住む場所を探してるんだが、いい場所を知らないか?」

「さあな道に住んでるような奴らが大半だぞ、お前も同じように道で寝ればどうだ?」

「なぁ頼むよ」そういうと、衛兵の装備のポケットに入っていた銀色の硬貨をちらつかせる。

「そこの道を右に曲がった先にドアだけがボロボロの家がある、そこを三、四、三のリズムでノックしな」それだけ言うと男は銀貨をひったくると逃げるように去って言った。


 男の言う通りに、三、四、三のリズムでボロボロなドアをノックすると。ドアがガチャリと開いて、中からグリズリーを一回り大きくしたような屈強な男が出迎えてくれた。

「出てけ!」そう言うと彼はバタンとドアを閉めた。

「僕は兵士じゃねぇ!」ドアをドンドン叩くが反応がない。仕方ないので隙間から見張りから奪い取った金貨を差し込む。するとドアを男はドアを開けてくれた。「頼むから話だけでも聞いてくれ」

「さっさと入れ!」そう言われて中に入ると、男はドアを厳重に鍵をかけだした。

「いやぁ、悪いな。どうにも住人の視線が痛くてね」

「あたりめぇだ、お前さんは人間で、兵士で、それでいて加護持ちときた。ここの奴らに好かれる要素が一つもねぇ」

「まず、兵士じゃないし、人間で加護持ちだけど、なりたくてなったわけじゃない」

「こっちの奴らには関係ないことだ。で、何の情報がいるんだ?」

「情報?」

「ハァ?お前何も知らずにあのノックをしたのか?」

「ああ、道端で会ったやつに金を払ったら、そうしろと言われたんだ」

「よくそいつに教えてもらえたな」

「銀色の硬貨一枚払ったら渋々って感じでな」

「なるほど、まぁともかく俺は情報屋だ。情報を扱ってる」

「そうそう、住む場所がいるんだよ」

「ふん、普通の場所には住めないんだろう?こんな場所に来るくらいだ」

「具体的には街に近いけど絶対に普通の人は近づかなくてスラム街の中にある物件かな。あと、不法占拠しても誰も文句言わないような場所」

「随分と訳ありのようだな」

「で、あるのか?」

「ないことはないが」

「いいじゃないか、連れて言ってくれ」


 そう言われて連れてこられ場所は僕の想像以上の場所だった。「ここだ」そう言うと屈強な熊男は去って言った。連れてこられた場所は古びた地下墓地、その一室だった。いや、確かに普通の人なら近づかないだろうがまさか地下とは……おまけにお隣さんは麻薬ラボ。お向かいさんは男娼が住んでいるとのことだ。熊男は金貨一枚払ってくれたサービスとして麻薬組織には予め連絡してくれるらしい。正直、もうちょいマシなところを期待してた。


 愚痴っても仕方ないので部屋に入ってみる。中はわりかし清潔で、埃がたまっている以外には特に不満はなかった、少なくとも部屋としての不満は。家具は何もなく石造りのキューブを裏返したようだった。鉄製のドアを閉めて、床に寝転がる。一日寝ていないので大分疲れが溜まっているようだ。鍵が閉まっていることを目で確認すると、体を休めるため、眠りに落ちた。


「いやはや、びっくりだねぇ」その声に目を覚ますと感覚的に僕は夢を見ているのだとわかった。その声の主はジャングルで見た夢にも出てきた白い大蛇。真っ暗な空間に佇むそれは神々しさを放っていた。

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