民主主義の真髄
「独裁者を許すな~」
「国民の意見を聞け~」
「もう戦争なんてしたくない~」
「安保法案、反対~」
国会議事堂を数百の人々が声を上げ、通り過ぎて行く。
顔ぶれはいろいろだ。
老夫婦、女子高校生、親子連れ、プラカードを持つ者など。
キャスターはモニターから1カメに視線を戻した。
「これぞ、民主主義ですね」
1年前まで民放キー局のアナウンサーだった彼は、呟くように言った。
独立後、初めて持つ報道番組で、自分の意見を発言することで好評だった。
彼は女性作家に視線を送った。
女性作家は悲しい顔をした。
「アメリカの戦争に巻き込まれて、戦死者がでたら責任を取れるんですかね~」
キャスターは、次に男性政治評論家に意見を求めた。
「C国の脅威を考えると、必要な法案です」
キャスターは意見のおもりを天秤の左右の皿に載せ、見事に釣り合わせた。
いかにも中立性を保つ、これが彼がテレビで重宝されている才能だった。
キャスターは女性作家を見つめる。
そして、意見を求めた。
女性作家はカメラを見つめた。
「こんな状況を民主主義の先進国のアメリカが見たらどう思うんですかね~」
彼女は小首を傾げ、視線を落とした。
「政治家は何を考えているんですかね~」
再び、視線をカメラに合わせた。
「だから、日本には民主主義が根付かない・・・
話し合えば分かるのに~」
女性作家は悲しそうに呟いた。
「ノーラはどう思う?」
キャスターは新人の女性ハーフタレントに振った。
「私も、そう思う」
彼女は長い金髪を指で髪をときながら答えた。
「ため口か」
キャスターは合いの手のようにツッコんだ。
彼女は、女性作家の厳しい視線を無視して、ペロリと舌を出した。
可愛く映るはず
この仕草は計算ずくだった。
この髪もそうだ。
本当の髪はブラウンだったが、日本人の好みに合わせ染めていた。
バッカじゃないの
私の本当の意見を言ったら、引くでしょう
日本人は分かっていない。
民主主義の本質は・・・
彼女は遠い目をした。
大学での研究室の様子が頭に思い浮かんだ。
彼女は20才だが、大学の政治学部を卒業していた。
それも有名大学を飛び級で。
しかし、事務所の方針で公開していなかった。
多くの視聴者は自分より若く、綺麗で、優秀なタレントを求めていない。
話し合っても、分かり合えるはずがないでしょう
利害が一致しないんだから
日本の議論は、自分の意見を言うだけじゃない
お互い妥協点がないから、話し合っても結論が出るはずないじゃない
時間の無駄よ
民主主義は一つのツールよ
意見が合わない人を納得させるための
意見が合わないことを前提としているから、多数決を取るのに
日本人は分かってないわね
民主主義の真髄が
「ノーラ、分かんない」
彼女はまたペロリと舌を出した。