【第87話】世界一の能力者
「なんかあったのか? なんてレベルの話じゃねぇよ……。ファンロン、お前さんなら知ってるだろ? なぜ竜が天界と魔界の二つのグループに分かれ、いがみ合ってるか」
男は、なにかを悟るかのような表情になりながらファンにそう聞く。と、ファンは少し険しい表情になりながら応える。
「東洋と西洋との文化の違い……」
「ご名答。俺ら西洋グループの竜ってのは、人間共から酷い仕打ちを受けてきたんだ」
朝霧は、少し顔を傾げながら「酷い仕打ち……?」と聞く。
と、男は疲れきった顔になりながら「そうさ」と一息置き応える。
「知っての通り西洋では昔からキリスト教が信仰されててな、竜というのは邪教とされていたんだ。おかげで、なんの罪もない竜すら討伐され始め、それを正当化された……。挙げ句の果てには、天界を統括する『神界』の手によって西洋グループは魔界に堕とされた……!」
朝霧は、「な……っ!」と言葉を失う。
『──なんの罪もない竜が殺される』
そんな理不尽なことがあって良いのか……。いや、答えなど最初から決まっている。なんの罪も犯してない誰かを殺すことが正当化されて良い理由など、どれだけ探しても絶対に見つかるはずがない。少なくとも朝霧は、そう信じている。それは宗教の違い……いや、竜や人間という違いがあろうとも、絶対にあってはいけないことだとも朝霧は思っている。
男は、そんな朝霧の気持ちを読みとったのか疲れきった顔に笑顔を貼りつけ「だがな」と一言置いて説明を再開する。
「人間は昔からこうやって『殺し』を『正義』とし、正当化してきたんだよ……それも私利、私欲のためにな。竜の討伐、魔女狩りなんて良い例だ。だが、そんな愚かな人間の言い分を認める神界も神界だ」
「そういや、神界ってなんだ?」
「神界ってのは、一つの大きな組織だ。まぁ、今は壊滅してるだろうがな」
朝霧が「なぜ壊滅したのか」を聞こうとしたすると、ラハブはそれを読みとったのか朝霧よりも早く応える。
「なぜ神界が消滅したのか、なぜ黒龍会ができたのか……ってのまで話してると時間がアレだから省かせてもらうが……、これで分かったろ。なぜ俺が人間嫌いなのかという理由が」
「あぁ……でも残念だな。もし、そんなしがらみがなけりゃあ俺達仲の良い友達になれたと思うんだけどな」
「……お前アレか? バカなのか? 唐突になんだそれ。敵も味方も関係ない、みんな仲良くなればハッピーだ、ってか? 脳内お花畑か」
「いや、だって結局の話、西洋の竜ってだけで差別されたのが許せねぇって話だろ? 実は俺も似たような環境で生まれたもんでよ。気が合いそうだなーと」
「……そうか。よし訂正しよう。疑問形は失礼だったな。バカだ、それも正真正銘の真性おバカだ、お前さんは」
「酷くね!? 初対面とは思えないほど言い方が酷くね!?」
朝霧がそんなラハブの言葉にギャーギャーとかみつく。するとラハブは少し間を置いて、また声を出し始めた。
「まぁアレだな。人類が皆、お前さんみたいなバカばっかりだったら、良かったんだろうよ」
「…………」
「いや、こんなバカばっかじゃ人類はとっくに滅んどるか」
「ハァ!? テメェ、ざけんな! 言いたい放題か!」
「あーあーったく、無駄話をし過ぎちまったな。俺は行くぞ。この術を展開したバカをとっちめてこなきゃなんねぇからな」
ラハブはそう言い立ち上がる。
「ん? え、いやいや、お前が術を展開させたんじゃねぇのか!?」
朝霧のその言葉を聞くなり、男はなにを言ってるんだ? という顔になる。
「勘違いしてるようだが……俺はラハブって言ってな……。と、まぁここまで言えばファンロンは分かるよな?」
「ラハブ……ってことは、じょ、上級竜!?」
「あぁ、だから俺にはこんな術を使うのは無理だ」
朝霧は、ファンとラハブの専門家同士の話し合いのようなものに首をつっこめずにいると、ファンが解説する。
聞く話によると、竜には下級竜、上級竜、龍神、界王という順のランクというものがあるらしく、それぞれ使える術に差がでるらしい。人間で言うところの『超能力のランク』と同じだろうと朝霧は、意訳する。
そして、上級竜では神の領域は使用できないらしい。
「……だったら、この術は一体誰が」
「知らないが、この街には俺しか黒龍会傘下の者はいねぇはずだ。ヴィシャップは裏切りやがったらしいし……あの海龍がこんなことをするとも思えねえ」
「そういや、お前らってファンの命を──」
朝霧がそこまで言ったところで、ファンが叫ぶ。その叫び声を聞き、朝霧がとっさにラハブからファンへと視線を移そうとした──瞬間、ラハブが朝霧を突き飛ばす。
バランスを崩した朝霧は、そのまま左側へと倒れる。と、先ほどまで朝霧がいた空間を一筋の赤黒い光線が貫く。光線は、空気を切り裂き、服屋の方で爆発を起こす。
朝霧は、直感する。
商店街で見たものと同じものだ、と。
朝霧は、ファンのいる方をとっさに見る。爆発に巻き込まれてないか心配になったのだ。
だが、そんな朝霧の心配は杞憂だった。幸運なことにレーザーは、ファンのいる場所より更に奥の方で着弾したようであった。
「こいつは召喚術か。契約者、ラッキーだな。敵さんの方からノコノコやってきやがったぞ。……いや、この場合はアンラッキーか?」
ラハブは、苦虫を噛み潰したような顔で朝霧に話しかける。ただ朝霧は、アンラッキーという言葉の意味を考えるより先に、この男の行動が異常に思えてならなかった。
「なんで俺を助けたんだ? お前、俺達を殺しに来たんじゃ……」
「さっきから言ってるだろ、それは勘違いだって。俺は下界の偵察に来ただけだ。それにお前さんやファンロンは既に抹殺対象から外れてる。まぁ、計画に首を突っ込んだ場合、どうなるか分からんがな」
朝霧は一瞬呆けて……はてなマークが脳裏に浮かぶ。もし黒龍会がファンの命を狙わなくなった……というのならば、それは夢にも思わないハッピーエンドだ。
だが、そんな希望のある言葉の中に朝霧は、引っかかるものを感じた。
「……計画ってなんだよ?」
ラハブが口にした計画という言葉。それが朝霧の脳の中で強く引っかかった。
ラハブは応えない。そして「来るぞ」と忠告するかのように呟いた。
瞬間、朝霧は得体の知れない気配を感じ、とっさに駅の入り口の方を見る。そこには、斑鳩が立っていた。
金髪の短い髪に碧眼が特徴的なその少年は、朝霧とラハブを見るなりやれやれと言った顔になる。
「いかる──」
「はぁ、なぜ上手く事が運ばないのでしょうか……」
斑鳩は朝霧の呟きを阻むように口を開く。ゆったりとしたその口調の裏には、なにかに苛ついた強い感情が隠っているのが分かる。
朝霧は、少し体がこわばる。
と、言うのも公園で話していたときとは雰囲気が全然違うのだ。まるで、オーラというオーラが殺気に塗りつぶされてるような、そんな感じすらしてくる。
斑鳩は、そんな朝霧をよそに舌打ちをして言う。
「全く、あなた方二人で相打ちでもしてくれれば、僕の仕事も少なくて済んだのに……これじゃあラハブのところへ契約者を誘導した意味がないじゃないですか」
「な、なんだよそりゃ……」
「あぁ、公園のときのようなめんどくさい喋り方は止めますね。まだ分からないんですか? 僕は白の騎士団でもなんでもない。数週間前に殺した奴が白の騎士団の一員で、その服を利用させてもらっただけです」
斑鳩は、軽く笑いながら残酷なことをさも日常的なことだと言わんばかりに言う。
朝霧には理解できない。誰かを殺すことをそんな軽視できる精神が……理解しようとも思わなかった。
「まぁ、それにしてもハプニングの連続で疲れましたよ。神の領域を展開し、街中で暴れても大丈夫なフィールドを作ったとこまでは良かったんですが……神の領域内に神宮寺がいるとか、ラハブとなぜか仲の良い雰囲気醸し出すとか……なかなか思い通りに動いてくれなくて困っちゃいました」
「てことは、てめぇ最初から俺達を狙って……っ!」
「当たり前じゃないですか。こんな竜の力を存分に使い切れない契約者と、異端者を殺すだけで本家の仲間入りを果たせるかもしれないんですよ? 東京国……いや、世界一の能力者である僕がそれをみすみす見逃すわけがないでしょ?」
本家? 世界一?
朝霧は、少年の言っていることを理解できずハテナマークを浮かばせていた。少年は、そんな朝霧をあざ笑いながら言う。
「なんだか理解し切れてないって顔ですね……まぁ、どうせここで死ぬんですし理解しなくても良いでしょう」
少年が言い終わった刹那、魔法陣が朝霧とラハブ、ファンロンを取り囲む。
それは、商店街で見たレーザーを発射するものであった。
(やっば……っ!)
朝霧は、とっさにラハブの手を引きながらファンへと向かう。
だが、それを斑鳩が黙って見ているはずもない。魔法陣一つ一つから僅かな光が放出され始める。
これを見て、朝霧の脳が本人の自覚なしに跳べという命令を出した。と、朝霧の身体が宙に舞う。と、ラハブもそれを見て同時に跳ぶ。
ラハブの反射神経のおかげで朝霧は、失速することなくファンの身体へとダイブした。
ヒュン! という空気の切り裂く音とバチバチという電気の放出する音が重なる。レーザーは、そのまま朝霧達のいた場所を爆発させ、猛烈な爆風と破壊を生み出す。
煙が数秒間立ち込め……やがて消える。
「チッ」
斑鳩は、レーザーの着弾地点を見ながら舌打ちをする。死体が転がってないことから、仕留められなかったらしい。
「やれやれ、瞬間移動とは。また索敵しないといけないようですね……」
少年は、視線を着弾地点からウエストポーチのポケットに向けなおしそう言う。と、ウエストポーチからなんの変哲もないメモ帳を取り出す。
「さて……さっさと終わらせちゃいますか」
そんなことを言いながら、メモ帳に魔法陣のようなものをフリーハンドで書いていく。一筆で全て書き終えると、それを破壊され尽くされた駅の床へと置く。
「紋章術、エコーレーダー」
どうも、アオトです!
今回はタイトル変更した直後の話なので、そのことについてのお知らせをと思いまして……。
まぁ、一・二時間ほど考えてタイトル変更をしたわけですが……そんな悩んでるなら話の方を書けって話ですよねw
(話が進まないおかげでプロットが溜まり『ネタ切れ→エタる』という心配がないというのはある意味良いことなのだが)
大規模編集もありますし、いよいよ期末テストもあるのでそこらへんは温かい目でお願いします。
では、今回の後書きはこの辺で……
こんなグダグダな進み方ですがこれからも応援よろしくお願いします!




