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【第85話】レーダー

「簡易結界って……お前竜術使えないんじゃねぇのか?」

「うん。一人では使えないよ」


 ファンの矛盾した応えに、朝霧は首を傾げる。

 と、言うのも契約した竜──つまりファンは朝霧に竜の力を分けることはできても、自身でそれを使うことはできないとヴィシャップが言っていた。そして、今それをファンも認めた。

 にも拘わらず目の前でファンは簡易結界という、確実に竜の力を使うであろう業を成したのだ。


「けど、例外があるんだよ」


 そんな朝霧の考えを修正するように、ファンはそう言いながら服の中に手を入れる。

 と、長方形に切り取られた紙が取り出される。なにやら魔法陣のようなものが描かれているのが分かる。


「これは、特定の配置をすることで自然に発生する竜の力──つまり竜脈を流れる竜の力を術者に吸収させるお札なんだよ。これで竜術を使えるようにしたの」

「ふーん。でもお前……元々体に竜の力を宿してるけど、それは使えないんだろ? なのに、その札で吸収した力は使えんのか?」


 ファンは、待ってましたと言わんばかりの顔になりながら説明し始める。


「それが、これのカラクリ。今の私の体には、はやての言うとおり竜の力が常に入ってる。それもこれ以上入らないというほど、膨大な量だよ。けど、それを逆手に取ったのがこのお札なわけ」


 朝霧は、自然と「へぇ」という相槌を打つ。だが、そんな適当な相槌にムカついたのか、ファンがムスッとした視線を朝霧に送る。

 数秒間の睨みの後、ファンが説明を再開する。


「でね。満タンに近い私の体に『過剰』に竜の力を溜め込むの。そして……溜め込むことのできる──つまり許容の限界に達したとき、『過剰』に溜め込んだ分が自然と放出されるわけ。まぁ、私くらいになると放出のタイミングは操作できるんだけどね」


 ファンは、ふふんと鼻高々に言う。

 そんなファンの説明に朝霧は、満タンに入った水槽に水を注ぐのと同じだろうと、意訳する。


「まぁ、この程度のお札じゃ下界に流れる微量な力しか吸収できないから……せいぜい他者の竜術を邪魔することくらいしかできないんだけどね。それも私を中心に半径百メートルくらいの範囲のみ」

「だったら、ヴィシャップとか海龍とかと戦ったときに使ってくれりゃ良かったのに……」


 朝霧がため息混じりにそう言う。が、ファンは「いや、それはできないよ」とキッパリ断ってから続ける。


「ヴィシャップのときも海龍のときもそうなんだけど……。簡易結界の効果じゃ彼女達の技とかを封じ込めるのは無理だったんだよ」


 朝霧は、ありゃ? と首を傾げる。


「つまり、簡易結界では遠隔操作術である召喚術や紋章術しか無効化できないの。だから近距離戦特化のヴィシャップや海龍には効かないってわけ」

「あぁ……、なんとなく理解できた」


 朝霧は、納得したような顔をする。が、そんな一つの疑問が晴れた瞬間、朝霧は変な違和感を感じた。

 辺りを見回す。

 倒壊寸前、または倒壊している商店街の店。そして、レーザーによって抉れた大通りのコンクリート。

 まるで、どこかの映画の怪獣が大暴れでもしたかのような非日常的な光景に朝霧は、息をのむ。と、同時にこの破損は元の世界には影響しないんだよな? という疑問も湧く。

 だが、そんなことは()()違和感……というより事実のおかげでどうても良くなる。


「そ、そうだ! 加奈子は!?」


 朝霧は、ファンと一緒にいると思っていた加奈子がこの場にいないことに気がつく。彼はファンの顔に視線を落とす。

 が、ファンは少し曇った顔になっていた。


「それが……途中ではぐれちゃって……」

「なっ……。と、とりあえず捜すぞ! どこではぐれた?」

「えーと……うみに行ったときに乗った乗り物があるとこ」

「駅か……地下に行かれてると少し面倒だが、そこを重点的に捜そう。いくぞファン!」


 朝霧は、ファンの手をしっかりと握ると、瞬間移動で駅へと移動する。

 パッと背景が、大通りから駅へと変わる。と、その瞬間、朝霧は少しだけビクッとさせられる。

 駅は、普段学生や他都市の研究者が何万人と利用する場所なのだが……そんな駅がガランとしていると、術が発動しているということを知っていても驚いてしまう。

 数秒間、駅の閑静さに呆気にとられた後、朝霧とファンは、改札口の横にある階段へと歩いていく。コツコツという二人の足音が反響し、響き渡るたびに「誰かいるのでは」という恐怖を感じる。

 と、この恐怖心が龍神という存在を思い出させる。


「もし、ここに龍神がいるとしたら……」

「かなこの発見が遅れれば遅れるほど、捕まる可能性は高くなるかも。……私のせいだ」


 朝霧は、ファンの顔がどんどん泣き出しそうな顔になっているのに気がつく。彼はそれを見るなり無言のままファンのキラキラと輝く金色の髪に手を落としユサユサと撫でる。

 顔が完全にうつむいてしまっているため、ファンが今どんな表現をしているのかは分からないが、泣いてはいない様子だった。


「……にしても、どうやって捜すかな」


 朝霧が頭を悩ませていると、高校の授業で習った……というより、マニアックな先生の与太話で知った『レーダーの仕組み』というものを思い出す。


(あれって、確か電波を対象物に当てて居場所を特定するんだよな……。あれ? でも俺って電気が使えるわけだし、頑張ればレーダーの役割くらい果たせるんじゃね?)


 ふと、そんなことを考える。

 理論やら理屈よりも、実行主義の朝霧は、目をつぶり電波を放出させてみる。目には見えないし、感覚で分かるものでもないので、しっかり放出されてるのかは疑問だが……と朝霧は思ったが、次の瞬間、感覚的になにか生命体らしきものを感じた。

 このとき彼は知る由もないのだが、電波と思って放出していたのは赤外線だったりとする。


「駅の構内──というかプラットホームにいるみたいだな。まぁ、一人しかいないみたいだから大丈夫だろうが早めに回収しに行くぞ」


 朝霧は、ファンにそう言う。と、ファンはプラットホームってなにと言わんばかりに顔を傾げてくる。

 本当に竜の知識以外は小学生以下だよな……と、朝霧は半分感心、半分呆れた顔で応える。


「えーと、あれだ。駅のホーム……って、駅自体知らんか……」

「し、失礼な! 駅くらい知ってるに決まってるんだよ!」

「おっ? じゃあどういう場所か言ってみろ」

「そ、それは………………駅」

「へ?」

「駅は駅なんだよ! それくらいのことも知らないのはやては!?」


 朝霧は、まさかの理不尽な受け答えに「えー……」となる。

 と、ファンはご機嫌ななめになったのか、ぷいっとしながら改札口とは反対方向へ歩いていく。


「って、おいおい! 改札はこっちだって!」

「わ、分かってるって! 気分的にあっちに行ってみたかっただけ!」


 朝霧は、やれやれという表情を浮かべながら……それでも心の中でファンの泣きそうな顔が消えたことに安心する。

 彼はファンの手を握ると改札口を抜ける。

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