【第84話】魔法陣
前方から急に吹いてきた生暖かい風が朝霧を覆う。と、同時にまるで半袖半ズボンで冬の夜空の下に出てたかのような寒気がした。
彼の直感が瞬間的に働く。
ここから先へは行くな、と。
だが、朝霧は前へ進まなければならなかった。と、言うのも少し前のことファンと加奈子が迷子になったのだ。
ことのきっかけは、ファンの「偵察は私がしてくる」という発言から。これに対し、加奈子が「じゃあ私も!」と言い出し揉め合いに。
朝霧は、事態の収拾のため仲介役+偵察の中止を勧告したのだが、苛立った二人から右フック+アッパーが飛んできた。完全に油断していたこともあり、軽く気絶してしまい……気づけば、二人はどこかへ消えていたという有り様になっていた。
そして現在、朝霧は置いてけぼりのボッチ……ではなく迷子捜しをしなければならなくなったというわけである。
「ファン! 加奈子! ……ちっ、これだけ建物に囲まれてると、声が届かねぇか」
朝霧は、ずっとこのように大声で名前を叫んでいるのだが、いかんせん彼がいるのは大規模な商店街。横を建物に囲まれ、その間でしか声が反響しない場所である。
つまり、ファンや加奈子が商店街以外の場所にいようものなら、朝霧の声が届くという可能性は限りなく低い。まぁ、商店街の中の建物に入っているという可能性もあるのだが……、
(竜の力を感知できるファンがいなきゃ、話にならねぇからな。一旦商店街の外に出て捜すか)
朝霧は、もしものため商店街から抜ける。
だが、行く当てなどあるはずもないので、適当にぶらつく感覚で歩み出した──そのときだった。
妙な寒気が朝霧の全身を駆け巡る。と、同時にビリビリとした殺気にも似た何かを感じた。
朝霧は、前にも似たような感覚を感じたことがあると思った。数秒間考えた末、それはヴィシャップと初めて会ったときのものであると気が付く。
(て、ことはこの力は竜術か……っ!)
朝霧は、妙な気配を感じる方向──駅のある方へと走り出す。
今まで、朝霧には何とも感じなかった竜術が、嫌というほど分かるくらいに感じる。つまり、それほどこの力が強いということだろう。と、言うことは、この術──神の領域を展開した龍神という者のものである可能性が高いというのは言うまでもない。
朝霧は、全力で駅へと走る。だが、途中で放置された自転車に躓き、転んでしまった──瞬間、朝霧の頭上スレスレを赤黒い光線が通り抜ける。
ヒュン! という空気を裂く音が聞こえたかと思えば、突如朝霧の左側にある店先が轟音を鳴り響かせながら爆発する。
思わず、朝霧は顔を右側へと向け、破片が目に入るのを防ぐ。
と、そのとき朝霧は、見た。
無数の魔法陣らしきものが、朝霧に狙いを定めるかのように展開されているのを──、
(うそ、だろ……っ!?)
朝霧は動揺しつつも、右手の指という指を魔法陣に向けようとする。が、さきほどの──店先を吹き飛ばしたほどの爆発の威力を見たからなのか、恐怖で指が動かなくなる。
そうこうしているうちに、魔法陣の中心が段々と赤黒くなる……。と、その瞬間、その光が周りの空間を満たすようにまき散らされる。
(──間に合わねぇっ!)
その光景を見た朝霧は、レーザーの迎撃をするには間に合わないと判断し、商店街の店の屋上へ瞬間移動する。が、迎撃に失敗したそのレーザーが朝霧の移動した店に直撃したのか、とんでもない振動が彼を襲う。
朝霧は、地震のような揺れによろけながらも、また走り出そうとする。が、彼のその動作をキャンセルさせるように、無数の魔法陣が再び展開される。
「くっ……キリがねぇ!」
朝霧は、苛立ちながらそう言う。と、同時に魔法陣の中心が赤黒く光り始めた。
逃げろ!
そう本能が叫び、再び瞬間移動をしようとした──が、突如朝霧の立つ店が崩れ始めた。先程の地震のような揺れなどとは比べ物にならないほどの強力な揺れが彼を襲う。
その揺れに驚いたため、瞬間移動のために溜め込んだ電気を思わず辺りに放出してしまった。
(しまっ……)
気づいたときには、時既に遅し。赤黒い光は膨張するように大きくなり、まさに発射直前だということが分かる。電子レーザーで迎え撃つにも、瞬間移動で逃げるにも電気が全く溜まってない現状では不可能だ。
打つ手がなくなった朝霧は、呆然としながら崩れ落ちる店の天井とともに落下する。
──そんななかどこからともなく少女の声が聞こえてきた。
「簡易結界術発動」
瞬間、さきほどまで展開していた魔法陣がスゥッと消えていく。まるで、朝もやが晴れていくような感じであった。
と、同時に朝霧の身体が地面に叩きつけられる。バタン! という音とともに激痛が身体を暴れまわる。
「痛ぇ……」
「は、はやて! 大丈夫?」
朝霧は、聞き覚えのある少女の声を聞き、反射的に顔を上げる。と、そこにはファンの姿があった。
「ごめんね。もう少し早めに簡易結界を張れてれば、こんなことにはならなかったんだけど……」




