【第78話】光属性
二人が外にでるのを確認すると、朝霧は、誰もいなくなった街では意味を持たない鍵を閉める。一つの習慣になってるんだなと、実感しつつ朝霧は二人を連れ、寮の階段へと歩いていく。
「なんだか不思議な感じ……。生活感はあるのに人の気配がないって、一種の奇怪現象みたい」
加奈子が、そう言う。まぁ実際、竜術などという未知の力が成したことなので、奇怪現象という言葉は的を射てるわけだが──、
朝霧達が寮の一階に下りると、そこには、無人の街が広がっていた。そもそもが、無機質で活気のないビル群が、更に寂しく感じる。
それと同時に放棄された車や自転車が狂気を浴びながら散らばっているので、恐怖さえ感じた。
「さて、外に出てみたわけだが……どこにいんだ? その術者様は」
朝霧は、ファンにそう問う。だが、当のファンは、目を瞑りながら何かを考えてる様子で、朝霧の問いに答えない……というよりは、問い自体に気づかないようだった。
数秒間が経ち、ようやくファンが目を開く。
「えーと……竜術らしい力を二つ感じとったんだけど……どっちから行く?」
「二体もいんのか!?」
朝霧が絶叫にも似たような大声を出す。
すると、ファンは、少し考えながら応える。
「仲間なのか、そうじゃないのかは、分からないけど……二体いるのは確かだよ」
「チッ、面倒だな……とりあえず、ここから一番近い方からにすっか」
朝霧がそう言うと、ファンが「じゃあ、こっち」と、ある方向を指す。その方向の先にあるものは、大崎自然公園であった。
「なんだなんだ? 大崎自然公園って竜の降臨地かなんかなのか?」
朝霧は、半分冗談、半分本気でそう言う。と、言うのも朝霧とファンが最初に出会ったのも大崎自然公園なのだ。
ファンは、言う。
「あー、確かにそうだね。よく分からないけど、あそこが聖地と考えても、おかしくはなさそう」
「聖地?」
「えーと、さっき結界があるって言ったでしょ。その結界の効力がなんらかの理由で、薄くなってる部分のことを聖地と言うの。効力が薄いだけ天界との行き来がしやすいから……ほら、エルサレムなんて有名でしょ?」
ファンは、朝霧が(半分)冗談で言ったつもりのことを本気で説明しているご様子だった。
だが、相変わらずオカルト知識についていけない朝霧にとって、エルサレムと言えば、地理で習ったかな~程度にしか覚えてない。
そのため、ファンのこの説明は、可哀想なほどに意味のないものなのであるが、少女はそんなことに気づくことなく一人説明を続ける。
「ま、まぁ、いいけど早く術者探さねぇと……」
朝霧は、意味の分からないオカルト説明を遮りそう言う。加奈子も同じことを考えていたのかブンブンと、頭を縦に振る。
ファンは、オカルトワールドから意識を戻したのか「あ~、そうだったね~」などとお気楽な返事をする。
すると少女は、早速意気揚々とした声で「ついてきて~」と言いながら先頭を歩いていく。と、その後を朝霧と加奈子が続く。
朝霧達は、大通りから伸びる横道へと逸れる。(人がいなくなる前も)閑静な住宅街を五分ほど歩き、抜けると、大崎自然公園の大きな門が見えてくる。
「ここ……確か数日ぶりか」
朝霧は、ふと榊原との激闘の後のことを思い出す。あの日はいろいろあって疲れたんだっけなどと思ったところで、ある男の存在を思い出す。
──神宮寺 洸大。この男は、朝霧の知るなかでも最強の部類に入る人物。と、言うのも無能力者でありながら、能力者の不良を一掃できるほどの実力を持っているのだ。(ちなみに、初めて会ったときも不良を一掃しているところだった)
また、朝霧の電撃を手で払うなどという、物理法則もビックリなトリッキーな技の持ち主でもある。
朝霧が、そんな回想にふけていると、ファンが唐突に言う。
「今気づいたんだけど、この竜術悪魔のものじゃないよ」
「へ?」
突如のファンの言葉に間抜けな声が漏れる。
ちなみに加奈子は、なにを言ってるのか分からないよ、と訴えるようにキョトンとしていた。
ファンは、そんな二人に言う。
「今ここに流れてる竜術の属性は光。悪魔の属性は闇だから元からして違う」
「えっと……属性とかあんの?」
「そうだよ。天使……つまり私みたいな天界に所属してる竜は光属性。で、魔界に堕とされた竜、つまり悪魔は闇属性なの」
なんだそのゲームみたいなベタな設定は……と、考えながら「へぇ」と相槌をうつ。
と、ファンは、何かを察したのか朝霧をジト目で見つめる。その目は、「また竜をバカにしたでしょ」と言わんばかりの目だった。
「つまり、だよ。竜の固有属性というのは環境に左右されるの。だから天界と魔界とで違うんだよ」
「わ、分かった分かった。これ以上説明されても疲れるだけだから……とりあえず、その術、白龍さんのかもしれないし、確認しに行こう」
朝霧は、上手くごまかそうとするが、ファンの目は相変わらずジト目だった。




