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【第76話】お人好し病

 だが、予想通り学寮に人気はない。まるで、お盆休みで学寮の学生が全員実家に帰ってるかのような感じだ。

 朝霧は、そんな学寮の一点を見つめる。朝霧の部屋だ。とにもかくにも、ファンの安否が一番心配だった。

 だが、皮肉なことにも、ここからでは二階にある彼の部屋は、廊下の壁により遮断され見えなくなっている。

 彼は、あまりの不幸の連続にチッと、舌打ちをする。

 と、ほぼ同時に走り出す。ここにいても現状は何も変わらないことは明白だったからだ。学寮の階段を猛スピードで駆け上り、二階に到達する。

 と、そこには加奈子のボストンバッグが置いてあった。普段なら、この見るからに重そうなボストンバッグを部屋に入れるのだが、今はそんな物に構ってはいられない。

 朝霧は、バン! と、部屋の扉を豪快に開くと、目にも留まらぬ早業で靴を脱ぐ。まるで漫画の主人公並みのマナーの悪さで家に入り込むと、リビングへ繋がる廊下を駆け抜ける。


「ファン無事か!」


 リビングへ足を踏み入れ、そう怒鳴るよう叫ぶ。と、そこにはお煎餅をかじりながら寝っ転がっているファン──と、加奈子がいた。


「な、なになに!?」

「へ? はや兄どうしたの? そんな慌てて……」


 二人は、双子か? と疑問に思うほど息ぴったりに姿勢を『寝る』から『座る』に切り替えた。

 こんな、ほのぼのした風景は、普通なら気を楽にするのだが、今の朝霧からしてみると逆に恐怖を感じた。外では人という人がいなくなるという異常事態が起きているのに、朝霧の部屋の中はそれを感じさせないのだ。

 これほどまでに怖いことは、ないと思う。


「な、なんなんだ……? どうなってんだよ……」

「……? どうかしたの、はやて?」


 ファンが首を傾げながら、そう聞いてくる。その姿はまるで、泣く小学生を諭す母親みたいに感じた。まぁ、容姿は10歳くらいの少女なのだが──、

 朝霧は、ここで気がつく。たとえ10歳くらいに見えるファンも、一応1000年を生きる竜であるということを。

 ファンにこの現象を話せば、原因が分かるのではないかと。


「実はだな。外で人という人が消えてんだよ。まるで突然蒸発でもしたかのように……。もしかして、あれ竜の仕業か?」

「え? あれって超能力じゃないの?」


 と、ここで加奈子が、ド天然なのかと疑問に思うくらいのボケをかましてくる。


「あのなぁ。街中の人間、全員が全員テレポーターなんて、有り得ないっつーの」

「あー、そう言われてみれば確かに」


 よく黒崎に転入できたなと、朝霧はため息混じりに思う。と、そんな朝霧と加奈子のやりとりの傍らで、ファンが真剣な顔をして、考え込んでいることに気がつく。と、ファンの口が開く。


「うーん。竜術で、そんなことが可能な術は、ないと思う」

「……て、ことは別の力ってことか?」

「多分それもないと思う。まぁ、他の力は専門じゃないから詳しくは、分からないけど……この世界には竜の力と呼ばれる竜術の他に魔術とか妖術とか……たくさんの力が実在するの」


 朝霧は、一応理解できた。オカルト関連(都市伝説を除く)に疎いとは言え、魔術や妖術といったメジャーなものは知っている。

 と、ファンは説明を続ける。


「魔術は、特定の術式を組み込んで発動させるものだから、これだけの大規模な大魔術になる発動させるだけでも詠唱に一年は、かかると思う。妖術は、陰陽師が使うものだけど、これは対妖怪用の術だから、こんなことはできないはず」


 朝霧の頭の上にはハテナマークが浮かぶ。都市伝説が好きな朝霧でも、オカルト用語を連発されては、分かるものも分からない。

 と、事情を察したファンがやれやれと言わんばかりの顔をする。


「つまりだよ。魔術で、一つの街単位の範囲で人間を消すとなったら、術をむのに一年かかるってこと。それで妖術は、妖怪以外のものを対象に使うことは、できないってこと」

「な、なるほど。おかげで大体理解できた」

「じゃあ話を続──「えーと……」」


 と、ファンの話を加奈子が遮る。


「どうかした?」

「えっと……竜ってなに?」


 僅かな沈黙が部屋に訪れる。

 と、同時に朝霧の背筋に嫌な冷や汗が流れた。と、言うのも朝に『これ以上、危ない目に遭わせなくてすむ人間をわざわざ闇に引き入れたくない』と、思ったばかりだったからだ。

 もし、この世界を知ってしまい、黒龍会に命を狙われるとなれば……国に命を狙われるとなれば……。そう考えたら、言えるはずがなかった。


「そ、それは……」

「良いんじゃない、はやて」


 唐突にファンがそう言う。

 朝霧にとって、この発言はとても驚いた。


「どうせ、お人好し病のはやてのことだから『犠牲を増やしたくない』とか思ってるんだろうけど……」


 朝霧は、全くのその通りで、言葉が出ない。まるで、心を読んでいるのではないかと、錯覚するほど、まんまであった。


「現に私とはやて、かなこ以外の人間が消えてるんだから……これで言わない方が私は、危険だと思うな」


 ファンの言うことにも一理あった。

 例えばの話、何も分からないまま闇雲に行動しても危険なだけだと思う。原因が竜の力と知っていれば、ファンというその世界に精通した者に事情を聞ける。

 朝霧は、少し黙る。そして決心すると、加奈子にファンとの出会いから、今までの経緯を全て話した。

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