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【第72話】一番困ること

「はや兄? どうかしたの?」

「ふぇ?」


 と、朝霧が心配事に似たようなことを考え込んでいると、可奈子がなにやら心配そうに覗き込んでいた。

 その姿は、まさにファンそっくりだ。


「別になんでもない……。あっ……か、加奈子。ちょっと学校まで行くぞ」

「へ? なんで?」

「い、いや……あの、ほら! 念のため、学校の道のりとか教えとかないと……俺、補習あるからついでにさ」

「はや兄がそう言うなら……」

「よし、決まりだ! じゃあファン。少し留守番頼む」


 朝霧は、そう言いながら寝室へと入り制服へと着替える。と、リビングからファンの声がふと聞こえてくる。


「え……。ちょっ……その女の子誰なのかくらい教えてくれても……」

「帰ったら説明するから。あと、お前。着替えろよ」


 朝霧が寝室から少し顔を出し、そう言った瞬間、ファンはやっと自分の格好を思い出したようだった。そのためか、ファンは、毛布に抱きつくような格好になりながら、顔を赤らめる。と、同時に俯き「らじゃー……」と、応える。

 それと、ほぼ同時に朝霧も着替え終わる。


「じゃ、留守番頼んだ」


 朝霧は、そう言うと、加奈子を連れ家を出る。雲一つない晴天のためか、それとも真夏という気候がそうさせるのか。朝にも拘わらず、とんでもない暑さが朝霧を襲ってくる。

 朝霧は、手で顔を仰ぎながらふと、玄関の横を見てみると、大きなボストンバックが置いてあることに気づく。恐らく可奈子のものだろう。

 あとで、ファンの衣服も含めて、整理しないとな~などということを考えながら、朝霧と加奈子は、通学路へと歩み出す。普通なら正規ルートを教えなければならないのだろうが、めんどくさいので、近道を教えることにする。


「そういや義父とうさんは元気してるか?」

「うん。たまにしか家に帰ってこないし、あまり会わないけど、今日の朝会ったときは元気そうだったよ」

「なら、良かった」

「……あの、さ。あの居候ちゃんとは、どういう経緯で同居することになったの?」


 人間、疑問を口に出すことが、核心を突くことになりかねないということを朝霧は身を持って思い知らされた。

 ファンとの出会いの経緯を……真実をそのまま話しても信じてくれる人の方が少ない。結月だって黒崎だって、最初は疑った。

 最初はなから信じてくれたのは、神宮寺と健二くらいだ。いや、健二はそもそもこっちの世界と関わりがあったからこそ、信じてくれたというのもあるだろう。神宮寺は、面白がって信じているのか、それとも信じている振りをしているのか、そこはよく分からないのだが──、

 とにかく、加奈子のようなこちらの世界との関わりもなければ、神宮寺のような性格もしていない一般女子中学生が、果たして、竜という存在を信じてくれるのか……。


「まぁ……追々話すよ」


 だから、朝霧はこんな曖昧な応えしかできなかった。いや、まぁ可奈子のことだ、朝霧が真剣に言えば信じてくれるだろう。

 だが……それが一番朝霧にとって()()ことだった。

 朝霧は、これ以上、この世界に知り合いを巻き込んではいけないと、榊原との戦いのあと、確信した。

 だから、朝霧は真実を話せない。

 これ以上、危ない目に遭わせなくてすむ人間をわざわざ闇に引き入れたくない。

 ──が、現実は思い通りにはいかなかった。


「……私には言えない、ってこと?」

「そういうわけじゃ──」

「じゃあどうして今、話さないの?」


 どう転んでも朝霧の楽になる答えは、ないようだ。朝霧は、既に良い言葉が見つからなかった。


「……まぁいいや。家に帰ったらじっくり聞くんだからね」


 加奈子はムーッとしながら朝霧にそう言う。それは、まさにファンと仕草が完全一致し過ぎていて、もはや朝霧には新鮮味がなかった。


(──やれやれ、帰るときまでに言い訳考えとかんとな……)


 朝霧は、そんなことを考えながら「分かった分かった」と、応える。

 と、目の前に見慣れた門が現れる。


「おっ……学校に着いたぞ」

「で、デカい……」


 ふと、可奈子の方を見てみると、隣で口を開けながら驚いていた。

 まぁ仕方ない。加奈子の住んでいた越川こしかわ区の学校は、百メートル走をするとき、校庭をななめに使わないとできないほど小さな学校なのだ。

 それに比べ、黒崎中学校と高等学校は、グラウンドがとんでもなく広い。どのくらいかと言うと、五十を越える運動部が悠々と活動できるほどだ。

 これを見て驚かないのは、東京国のなかで五本の指に入る学校の生徒くらいだろう。

 ちなみに朝霧は、黒崎小学校本校の校庭がどうなのかを知らない。

 と、いうのも朝霧が通っていた黒崎小学校というのは、越川区にある黒崎小学校第四分校なのである。そのため、本校を全く知らない。

 だから朝霧は、小学校本校のグラウンドもこれと同等レベルという小学生には贅沢過ぎる広さだということを知る由もないわけである。

 と、朝霧はそんな大きなグラウンドの中心に坂本龍馬もどきこと、武村(たけむら) 翔太(しょうた)がいることに気づく。

 なになら、翔太も講習に来たところのようだ。いつもならここで、翔太の方へと走っていくところだが、今日は連れがいるため、それができない。

 と、朝霧はそこで気がつく。加奈子をどこに連れて行こう、と。外で待たせるわけには行かないし、だからと言って、このまま教室に加奈子を連れて行くのもどうかと思う。

 仕方がないので、朝霧は、加奈子を職員室まで連れて行こうと考えた。まぁ顔面しわくちゃお化け(学園長)に会うことになるのだが──、


「じゃあ職員室まで送って──」

「はや兄、夏期講習なんでしょ? 私なら大丈夫だから先に行って。遅れちゃうとダメだろうし……」

「け、けど──」

「はや兄。私がわざわざ、はや兄の家に転がり込んだ理由知ってる?」

「……?」

「はや兄のサポートと、生活面の監視なんだよ? だからほら! 私に構って遅れちゃ、私が来た意味ないでしょ?」

(あれ? 俺って年下(中学生)に監視させられるほど酷いのか?)

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